世界の中でも比較的、水に恵まれている日本。水道設備が普及した現代では「水不足」についてあまり真剣に考えたことはないかもしれません。しかし世界では飲み水として十分な基準を満たした「安全な水」を得られていない国々がまだたくさんあります。
水不足と聞くと長期間雨が降らずに土地が干上がる「干ばつ」を思い浮かべますが、干ばつだけではなく私たち人間の暮らしにも原因があることがわかってきました。
目次
世界で水不足が起こる原因とその影響
今、世界各地で「水不足」が問題となっています。国連の食糧農業機関(FAO)の報告では、2025年までに全世界人口の3分の2が水不足に陥る可能性を示唆しています。その原因として地球温暖化による干ばつなどに加え、人為的要因として人口増加などによる水不足が挙げられます。
気候変動による様々な水不足の原因
世界的な地球温暖化は、水不足に大きな影響を与えています。アフリカなどで降水量の減少から土地が干上がる「干ばつ」はその最も代表的な例ですが、それ以外にも河川や貯水池の水温が上昇して、植物プランクトンが増殖。温暖化で降水量が減少し、水源地の水の循環が滞ったため、急速に水質が悪化するなどが挙げられます。この他、地球温暖化で地表や海面の水の蒸散量が増え、農地での水の需要が高まったり、河川の水量が減ったりという現象もますます水不足に拍車をかけているのです。
\地球沸騰化についておさらい/
人口増加で水の使用量が激増
世界的な水不足の原因の1つとして、主に発展途上国を中心に爆発的に人口が増え続けていることが挙げられます。現在、世界で最も深刻な水不足に見舞われているインドでは、2023年に中国を抜き、世界最大の人口大国となりました。インドの現在の人口は約14億5千万人。2位の中国と約3千万人の差で、3位のアメリカの3億5千万人の4倍以上という多さです。しかもその数は年々増え続け、国連の推計によると2060年前後には17億人前後までに達するという見通しが出ています。
ここまで大幅に人口が増加する見通しがあるにもかかわらず、インドでは長年、インフラ整備が進んでいなかったといいます。そのためインド全体で6億人以上が深刻な水不足に見舞われ、毎年20万人以上の人々が安全ではない水を利用したことで命を落としているといわれています。
季節風(モンスーン)による恵みの雨も、気候変動により予定が数週間も遅れたり、一部の地域のみで降るなど、雨水に頼る貯水池はますます枯渇。インドで重要な水資源となっている地下水も、農業用水などによる過剰な水の使用によって水位が大幅に低下しています。インド政府は2019年に水源管理を監督する専門の省庁を新たに創設し、2024年までに地方の全世帯にも水を供給する水道インフラ計画を発表し改善を進めていますが、農村部での普及率はまだまだ低く、インフラの整った都市部に人口が流入するなど、さらなる問題を招いています。
開発による水源の汚染や環境破壊
世界の国々、特に発展途上国では、急速な都市化と工業化によって未だに「下水処理」が適切に行われていないことが、水源汚染の大きな原因となっています。安定的な上水を供給するためにダムなどの大型水資源開発が積極的に進められる一方で、生活排水や工業廃水の収集・処理や廃棄などが野放しとなり、これらの汚染された水が未処理のまま河川などの淡水域や土壌、海などに流出し、水源を汚染し続けてきました。
生活排水は有機的なため、時間とともに分解されることもありますが、工業排水は人間の健康や生態系に有害な可能性のある物質を含み、それが容易に生物分解されないため、水質汚濁やそれによる健康被害、生態系の破壊が深刻さを増しています。
\水質汚染と環境問題/
水道インフラの遅れと衛生問題による健康被害
水不足は気候変動だけでなく、水道インフラの遅れなどでも起こっています。特にアジアやアフリカなどの開発途上国では、都市部と農村部での水道施設の普及率に格差が生じたり、水道サービス事業者の非効率な管理体制などから、きちんとメンテナンスが行われず漏水が放置されたり、水道利用料を徴収できていないなど、日本や他の先進国では当たり前の水供給のシステムがなかなか浸透しない現実があります。
こうした水道サービス事業の遅れは意外にも都市部で多く見られ、急増する人口増加によって安定的な水の供給が遅れるなどの新たな問題となっています。衛生的で安全な水の供給がなされていないことは、感染症などの健康被害を招き、今もなお人々を苦しめているのです。
水不足と水資源をめぐる紛争問題
周りを海で囲まれている日本では、国家間での水に関する紛争は想像ができないかもしれません。しかし世界の多くの国と地域では、水資源の配分や水質汚濁、水の所有権の問題などによって、様々な紛争が起こっているといわれています。米国の世界資源研究所(WRI)のデータによると、世界の17の国々で水の需要が供給を上回る「ウォーターストレス(水ストレス)」が非常に高い状態で起こっているそうです。またこうした国々のうち、12カ国が中東やアフリカ地域に位置し、水不足の問題が発端となり、武力衝突や紛争に発展していると指摘しています。
一番顕著なのが中東のシリアです。シリアでは2006年から2011年の間に大規模な干ばつに見舞われ、多くの人が農作物の不作のため、仕事や住む家を失いました。干ばつによる飢饉と不景気、政府の汚職に対する反政府デモが発端となり、のちに「アラブの春」と呼ばれる、シリアの政府軍と反政府勢力の武力闘争が本格化。内戦へと発展し、2024年の現在でも周辺国とシリア国内で合わせて1670万人もの人々が難民や国内避難民となり、多くの人道支援を必要としています。
また水資源をめぐる紛争は、大きな河川を境に起こっていることもわかっています。ヨーロッパで二番目に大きいドナウ川は、ドイツを源流に16カ国にまたがって流れていますが、過去にはダム開発をめぐってスロバキアとハンガリーの間に一時緊張が走ったといいます。
国際司法裁判所により両国が罰金を支払う判決が出たことでこの問題は決着しましたが、日本の近隣諸国では、北朝鮮と韓国でも漢江のダム建設をめぐり対立が起こり、今も緊張状態が続いています。この他、エジプトを始め11カ国を流れるナイル川や、インドとパキスタンを流れるガンジス川でも水をめぐる対立や緊張から、今後紛争に発展する可能性が示唆されています。
水不足が原因の貧困問題や教育機会の損失
水不足は、生活面や衛生面だけでなく、貧困問題や子どもや女性に対する教育の機会損失にも影響を及ぼしています。世界規模で起こっている水問題の解決に国連をはじめJICAなどの国際協力機構、国際NGOなどが取り組みを行い、井戸の設置や水道インフラは年々整ってきたといいます。しかしその管理と維持、継続的なサービスは今後も続けて行かなくてはならない課題の1つです。
また、世界からの支援で給水サービスが整っても、貧困世帯が利用できる料金設定になっていなかったり、障害がある、または民族間の偏見や対立から地域の中でそうしたサービスから取り残されている人々がいることは見過ごせません。こうした地域では、いまだに子どもや女性たちが水汲みなどの仕事に従事せざるをえず、学校に通えないなど、教育を受ける機会までも奪われているのです。
慢性的に水不足の国や地域とその現状
地球上に存在する水の大部分は海水で、塩分を含まない淡水は地球全体のわずか2.5パーセントです。淡水のうち3分の2が氷河の水で、残りの3分の1が地下水といわれています。湖や沼、河川のように地表に存在する淡水はわずか0.008パーセントといわれています。
そんな中、世界の水の使用量は増え続け、降水量の多い少ないにかかわらず、世界的に深刻な水不足を引き起こしています。近年では地球温暖化に伴う気候変動により、降水量が比較的多い地域でも雨が降らずに水が枯れる渇水被害や、急激な人口増加で生活用水や農業・工業用水が増加することで、慢性的な水不足に陥っているのです。
世界の水使用の約6割がアジアに集中
現在の世界の水使用量のうち、約6割がアジアで使用されているというデータがあります。水の用途別の使用量のダントツ1位は、農業用水ですが、そのうちの約7割がアジア地域で使われているといいます。世界的な人口の増加で年間の穀物消費量が増えると、こうした穀物の生育にさらに水の需要が増し、ただでさえアジアに集中している水の使用量が、今後も右肩上がりで増え続けることが懸念されています。
世界で一番水を使っているトップ3は?
2021年時点の世界各国の水使用量ランキングを見ると、1位はインドで2位は中国、3位はアメリカという順になりました。これは2024年の世界人口の数と一致しています。水の用途別使用量については、1位のインドが全体の9割を農業用水として使用していることがわかりました。2位の中国では農業用水が約6割、工業用水が約2割で残りの1割が生活用水となっています。近年の経済成長にともない農業に代わって工業化が進んでいる背景が伺えます。また3位のアメリカでは、一人あたりの水の使用量が世界でトップと、個人が潤沢に水を使用していることがわかっています。
日本の水不足問題とその原因について
上水道の普及率がほぼ100パーセント、下水道も約79パーセントが普及している日本は、降雨量・降雪量も多く、山に囲まれています。水道インフラも整い、清潔な水を常時手に入れられる環境の中で「水が不足している」と聞いても疑う人は多いかもしれません。
日本で水不足が起きる原因って?
実は日本では今、気候変動によって降雨量のバランスが崩れてきているといわれています。この20〜30年の間に降水量が少ない年と多い年があり、少ない年にはニュースなどでダムの貯水量や河川の渇水が取り沙汰され、降水量が多い年は大雨による被害が増加しているのです。よく天気予報で耳にする「線状降水帯」は一極に集中して雨を降らせ、地滑りや崖崩れなどの被害を及ぼしています。一方で雨が降らないことでダムなどの貯水量が減り、給水制限が敷かれる地域があるなど、安定的な水の供給が今後、難しくなる可能性も示唆しています。
また山に囲まれた日本では河川に勾配があり、他の国々に比べて川の距離も短いことから、大量に雨が降っても海へ流れてしまい、水資源として利用されにくいという特徴もあります。こうした地形に加え、異常気象などで本来その時期に降るはずの雨や雪が降らなくなると、途端に渇水による水不足に見舞われる状況にあるのです。
一人当たりの水資源は意外に少ない日本
国連食糧農業機関(FAO)が公表したデータをもとに国土交通省がまとめた資料によると、日本人一人当たりが年間に利用できる水資源賦存量を海外と比較すると、世界平均の2分の1以下という結果になりました。また水の使用量が多い首都圏だけで見ると北アフリカや中東地域と同程度だということがわかりました。意外にも、日本人一人が使える年間の水の量は少ないのです。
にもかかわらず、国別の生活用水の使用量では1日一人当たり224リットルと、1位のオーストラリアについで世界第2位という報告もあります。環境先進国の一つに挙げられるドイツでは1日の水の使用量が115リットルと日本の約2分の1ということから、いかに私たち日本人が日頃、水をたくさん使っているかがうかがえるでしょう。何に一番水を使っているかの内訳では「風呂・シャワー」の比率が高く、使用量では世界でも高い水準となっています。
輸入大国・日本が海外の水不足に影響を与えている?
食料自給率が40パーセント程度と低く、その多くを輸入に頼っている日本。そこで近年、話題となっているのが「バーチャルウォーター(仮想水)」です。バーチャルウォーターとは、食糧を輸入している国において「もしもその輸入食糧を自国で生産するとしたら、どのくらいの水を必要とするか」推定したもので、ロンドン大学名誉教授のアンソニー・アラン氏による概念です。
それによると1キログラムの牛肉を生産するには、まずエサとなる1キログラムのトウモロコシの生産に1800リットルの水が必要で、さらに牛がそのエサを食べて1キログラムの牛肉になるためには、約2万倍もの水が必要なのだそうです。日本は自国の水を使わない代わりに、食料を輸入するだけで、他国から大量の水を輸入しているといえます。海外での水不足の問題は、決して「他人ごと」ではない。そのことを私たちは忘れてはなりません。
\食糧の輸入は地球温暖化にも影響/
水への意識を変えた? 世界の取り組み
世界では衛生状態の悪い水にしかアクセスできない人々がたくさんいることや、水道インフラの整備が追いつかないことから、慢性的な水不足に陥っている国や地域がまだたくさんあることがわかりました。意外にも私たちの暮らす日本が、ちょっとしたことで水不足に陥りやすかったり、食料自給率が低く輸入に頼ることで、世界の水資源に知らないうちに負荷を与えていることも見過ごせない事実です。こうした世界の水問題をもっと「自分ごと」にするために国連などの国際機関を中心に、世界の取り組みについて紹介します。
SDGsと水不足問題について知っておきたいこと
SDGs(エス・ディー・ジーズ)とは、「人類がこの地球で暮らし続けていくために、2030年までに達成すべき目標」で、持続可能な開発目標(Sustainable Development Goals)です。SDGsが国連総会で採択されたのは2015年。
具体的な17のゴール・169のターゲットを示したアジェンダ(議題)の前文には、なぜSDGsが必要なのか、どんな決意でこの目標を掲げたのかが明記されています。ここではその前文の一部と、世界の水不足の解決のために知っておきたいSDGsの目標の一部を紹介します。
SDGsの前文・宣言(一部抜粋)
この計画(アジェンダ)は、人間と地球、そして 繁栄のための行動計画です。
そして、より大きな自由と、平和を追い求めるものでもあります。
わたしたちは、持続可能な世界を築くためには、極度の貧困をふくめ、あらゆる形の、そして、あらゆる面の貧困をなくすことが一番大きな、解決しなければならない課題であると、みとめます。
すべての国と人びとが協力しあってこの計画を実行します。
(中略)
ともに持続可能な世界へ向かうこの旅をはじめるにあたり、だれひとり取り残さないことを誓います。
(後略)
引用:ユニセフ「SDGs CLUB」|「読んでみよう SDGsの前文・宣言」
出典:国際連合広報センター SDGsポスター(17のアイコン 日本語版)
SDGs1:貧困をなくそう
実は世界的な水不足の問題は、開発途上国や紛争による難民・国内避難民など、貧困層の人々を苦しめ、命までをもおびやかしています。安全な水を得るために莫大なお金が必要だったり、それが不可能な人々は、例え汚れた不衛生な水であってもそれを使わざるを得ないのが実情です。
またそうした水を得るために、女性や幼い子どもたちが何時間もかけ、徒歩で水汲みに出かけるなど、いまだに行われているのです。ユニセフによると世界ではまだ6人に1人(3億3350万人)の子どもたちが、「極度にまずしい」暮らしをしているといわれています。
SDGs1「貧困をなくそう」という目標は、水不足の問題解決にも重要な項目であり、貧困の問題が解決できなければ、水を得るための「格差」は縮まらず、根本的な解決にはならないということを認識しなければならないでしょう。
SDGs2:飢餓をゼロに
ユニセフのサイトでは、食料不安を抱える人の割合として「世界を生徒40人の教室と考えると、その日食べるものがない、明日以降も食べ物をえられるか分からない状態の人が4人もいます。」としています。一見、飢餓と水不足は直接的な関連がないように思うかもしれませんが、世界の水の用途別使用量の第一位は「農業用水」です。水が足りないと農業ができない。その結果、農作物が育てられず食糧を供給できない。水不足は巡りめぐって、食糧不足や飢餓の問題にも関わっているのです。
SDGs3:すべての人に健康と福祉を
慢性的な水不足にある国や地域では、飲み水ばかりでなく手や顔、体を清潔に保つ水さえも手に入りにくい状況です。清潔な水が極端に不足した不衛生な環境は、感染症のリスクを高め、汚れた水が原因で起こる下痢や嘔吐、結膜炎などの眼病を予防することも困難になってきます。SDGs3の「すべての人に健康と福祉を」という目標も、安全な水を安定して供給することなくしては、実行が難しいということを知らなければなりません。
SDGs4:質の高い教育をみんなに
世界では、貧困や宗教的な抑圧などで、男女の隔てなく教育を受ける権利が認められていない国や地域がたくさん存在しています。ユニセフのサイトでは「全世界で小学校に通えない子どもは約6700万人。すべての年代で、サハラ以南のアフリカ地域の子どもたちが、もっとも学校に通うチャンスが少なくなっている」と伝えています。
サハラ以南のアフリカの地域では、いまだに清潔で安全な水を手に入れにくい状況にあると報告されています。教育の問題と水不足の問題が重なるのは偶然ではありません。こうした地域の水汲みに従事している多くが女性や子どもたちで、中には学校にも通えず、教育の機会を奪われている人々もいるのです。
等しく教育を受ける権利を手に入れることは、国の将来を担う人材を輩出します。一部の開発途上国で、なかなか水道事業のインフラ整備が進まないのは、水道事業に従事する技術者の不足や育成が需要に追いついていないとういう報告もあるほどです。SDGs4-4では「2030年までに、はたらきがいのある人間らしい仕事についたり、新しく会社をおこしたりできるように、仕事に関係する技術や能力をそなえた若者やおとなを増やす。」としています。これらは安定した水の供給にも欠かせない目標といえるでしょう。
SDGs6:安全な水とトイレを世界中に
SDGs6の目標は、まさに水不足の問題解決に不可欠です。ユニセフのサイトによると「水道の設備がない暮らしをしている人は22億人以上」とされ、「トイレがなく、道ばたや草むらなど屋外で用を足す人は4億1900万人」とされています。世界には水道設備がないばかりか、いまだに原始的な環境で用を足している人々がいるのです。
SDGs6-1では「2030年までに、だれもが安全な水を、安い値段で利用できるようにする。」としています。この場合の安全な水とは「安全に管理された飲み水」のことで、その定義は「自宅などの敷地内にあり、必要な時に入手でき、排泄物や化学物質によって汚染されていない、改善された水源から得られる飲み水」とされます。私たちにはごく当たり前なことに思えますが、それさえも実現できていない国や地域があることを忘れてはならないでしょう。
またSDGs6-5では「2030年までに、必要な時は国境を越えて協力して、あらゆるレベルで水源を管理できるようにする。」とあります。これは過去に水をめぐって紛争を起こしてきた国々に向けての目標ともいえるでしょう。人類はもちろん、地球上の生態系にとって大切な水資源は、どこかの国や地域が独占したり優先して利用をしたりすることが許されてはならないのです。
SDGs9:産業と技術革新の基盤をつくろう
SDGs9−1では「すべての人のために、安くて公平に使えることを重視した経済発展と福祉を進めていけるように、質が高く、信頼でき、持続可能な、災害にも強いインフラをつくる。それには、地域のインフラや国を越えたインフラも含む。」とあります。ここでいうインフラとは、道やダム、電気を作る発電所など、私たちの生活を支えている基本的なものを指しますが、水不足の解決には、これらすべてが関わっているといっても過言ではありません。
いまだにきちんと認知されていない「世界水の日」とは
「世界水の日(World Water Day)とは「淡水に関する国際デー」です。淡水とは塩分を含まない水のことで、世界中の人々が安全に使える水(淡水)と水の管理方法を、この先もずっと続けていくためにはどうすればよいか」を考え、地球の現状を知り、アクションを起こす日とされています。また2015年に採択された17の国際目標のうち、SDGs6「安全な水とトイレを世界中に」を達成するために行動を促す日でもあります。
環境問題に関心がある方は知っていると思いますが、毎年3月22日が「世界水の日」とされたのは今から約30年前の1992年です。翌年から毎年「世界水の日」のイベントや取り組みは世界各地で実施されていますが、その認知度はまだ高いとはいえないかもしれません。
世界中で毎年3月22日やその前後に、様々な催しやキャンペーンが行われています。2023年の3月22日から24日には、46年ぶりとなる「国連水会議」がニューヨークで開催されました。現地参加とオンラインを合わせると1万人ほどの人々が参加したといわれます。会議では「健康のための水:安全な飲料水と衛生へのアクセス」をはじめとする5つのテーマに沿って話し合いが行われ、今後も継続的な水の問題について話し合う必要性が再確認されました。
淡水生態系の回復が水不足の解決策に?
地球上にある水の大部分は海水で、淡水は地球全体のわずか2.5パーセント。そのうち湖や沼、河川のように地表に存在する淡水は、わずか0.008パーセントしかありません。そんな貴重な淡水資源も年々、減り続けていることがわかっています。こうした淡水をめぐる河川や湖沼、湿地といった「ウェットランド」は、世界の各地で多様性を失いつつあるのです。
WWF(世界自然保護基金)のレポートでは、淡水域に生きる魚類や両生爬虫類、哺乳類などを調査し、その個体数の変動指数について発表しました。それによると1970年から2014年までの44年もの間に個体数が83パーセントも低下したことがわかりました。これは淡水域の多様な野生生物を絶滅の危機に追い込むだけでなく、人間の営みにも欠かせない水資源自体が深刻な危機にあることを示唆しています。
SDGsの目標の1つにも掲げられているすべての人へ「安全な水」の供給を実現するためには、こうした水辺に集まる生き物が織りなす、豊かな自然環境の回復が欠かせません。淡水域の生態系を取り戻すことは、巡りめぐって水不足の解消につながっているのです。
ウォーターフットプリントとは
ウォーターフットプリント(WF)とは直訳すると「水の足跡」。「商品や製品の生産から消費、廃棄に至る過程で消費される水の量を定量的に測定する指標」のことを指し、2002年にユネスコの研究者Arjen Hoekstra教授によって考案されました。例えば私たちが着ている服や加工品などの製造過程でどれだけの水が使われたのか、またはどれだけの水を汚したかなどを包括的に計算する時の指標となります。
先に紹介した「バーチャルウォーター」は輸入した食料の生産にかかった水の量を測るものですが、さらに「ウォーターフットプリント」を知ることで、製品の背景にある水の利用量や、私たちが消費する商品やサービスがどれだけの水を汚しているかなど、環境への影響を理解し、そうした製品の購入時の参考にすることにもつながっています。
\製品の環境負荷を評価する指標は他にも/
日本の水資源確保への取り組みって?
一見、水が豊富な日本ですが年間の降雨量は徐々に減少。山に囲まれた土地柄、河川の水が海に流れやすい状態にあり、結果的に水不足になっていることがわかりました。日本における水不足の問題解決については、2014年に施行された「水循環基本法」に基づき、健全な水環境の維持や回復、再生水利用の促進や河川の整備、森林保護をはじめとする保全活動など水資源をいかに確保するか取り組みが続けられています。
その1つとして、東京都では2002年から多摩川の水源となる上流域の人工林を手入れし、保水力の高い健全な森林に再生する活動を行っています。こうした活動は「森林の水源かん養機能(水資源の貯留、洪水の緩和、水質の浄化といった森林の働き)」を高め、河川以外の貴重な水源として注目されています。
またこれまで水資源の多くを一級河川などに頼ってきた他府県でも、川の上流域にある森林を整備・保全することで水源林の管理・保全に力を注いでいます。こうした森林は保水力の高さから「緑のダム」と呼ばれ期待されていますが、継続的に森の保水力を高めるには、木の間伐などきちんとした管理が必要不可欠です。林業従事者の後継者不足や、地形などによって本当に洪水の緩和になるのかなど、議論の余地や課題も多いのが現状です。
\山の環境は川、海の水へとつながっている/
世界の水不足 日本からの支援
日本は、世界の水不足の問題に以前から支援の手を差し伸べ、改善のために尽力してきました。JICA(国際協力機構)が行う国際協力のうち、水分野でのODA(政府開発援助)はダントツで多く、世界でもトップクラスの資金提供者(ドナー)といわれています。
日本の世界へ向けての水支援の取り組み
日本では高度経済成長期に渇水被害や地盤沈下、水質汚濁の問題が深刻化しました。そのため科学的知見の蓄積や、自治体など河川管理者による役割や法整備、流域の自治体や住民などが協議を続けた結果、こうした問題を大幅に軽減することに成功したといわれています。県をまたぐ河川の問題解決や対処に関する経験などから、JICAでは水と衛生分野でのインフラと運営・経営の両面で、資金援助や技術協力を続けてきました。
こうした取り組みは、アフリカやアジア、中南米などの開発途上国を中心に広がりを見せ、現在では井戸や水道の新たな設置よりも、既存の水施設をいかに効率的に利用するか、井戸を組み上げるためのハンドポンプを動力化したり、「水を大切に使う」「使った分の使用料金を適切に支払う」などの啓蒙活動の段階へとシフト。水道事業体の採算性を高めて経営を安定させ、施設を拡張するなどのサイクルづくりなどの支援と指導が中心となってきているそうです。
日本の技術的な支援
日本では古くから続く治水事業などの経験から、水に対しての知見や技術が特に高いといわれています。日本国内をはじめ、世界の水不足に対しても積極的な技術提供や支援を続けています。世界の水不足の解決に挑む日本ならではの技術を紹介します。
海水淡水化技術
世界の水に恵まれない国のために「海水から飲料水を作り出している」のが海水淡水化装置です。従来の海水を蒸発させて塩分を取り除く方法に加え、現在は海水中の塩素イオンを除去できる「ろ過膜」を開発。海水中の微生物はもちろん、大腸菌や赤痢菌などの細菌や、近年問題となっている海洋汚染の原因物質といわれる有機物に至るまで、段階的にろ過する方法がとられています。海水淡水化の事例として、日本国内やインドネシア、パプアニューギニアなどで活用されているそうです。
下水処理技術
海水と比較して3分の1のコストで飲料水をつくれるといわれているのが、下水を利用した再生水です。日本が開発したろ過システムによって、下水中の病原菌やウイルスを活性汚泥と合わせて除去することで、下水から飲料水がつくれるのだそうです。海から遠く離れた水源に乏しい乾燥地域などで利用できることから、北アフリカや中東などの途上国で導入が進んでいるそうです。
生物浄化法(EPS)
生物浄化法(Ecological Purification System)とは、日本の研究者によって考案された、自然界に存在する微生物の浄化能力を用いて水をろ過し、安全な水を作り出す方法です。このEPS技術は下から礫層・砂層・貯水槽の3つの層で構成されるタンクに無処理の水を入れ、砂の中にいる微生物で形成される「ろ過膜」の働きで水が浄化されるという仕組みです。
コストがほとんどかからず、化学薬品や電力を用いずとも病原菌のいない安全な水を作り出すことができるため、開発途上国で広く採用されています。近年では日本企業により小型の浄水装置が開発され、アフリカ諸国やインドネシアなどのアジア圏で公的資金を活用した支援が行われています。
水支援 私たち個人にできること
ここまで水不足について、その原因や世界の取り組み、日本の取り組みなどを紹介してきました。私たち個人にも、できることはたくさんあります。世界と日本の水不足を少しでも解決し食い止めるために、私たちができること4つをご紹介します。
1.節水|水の使い方を見直す
一番の取り組みは「節水」、水の使い方を見直すことです。水道を出しっぱなしにしないなど、基本的なことも肝心ですが、この記事でお伝えした通り、私たちが普段口にする食料や衣服などの生産に一体どれだけの水が使われているのか。「バーチャルウォーター」や「ウォーターフットプリント」などといった概念を思い出し、食料を輸入に頼っている私たちは「間接的に他国の水資源にストレスを与えている」ということを再度認識しなければならないでしょう。世界の節水に貢献するために、地産地消に切り替えるなど水不足改善のために必要な考え方です。
2.行動|生活排水を見直す
上水道設備が整い、水道をひねればきれいで安全な水が比較的安価で手に入る日本。毎日の生活で大量に生まれる「生活排水」についても見直す必要性が出てきています。水の使用量を減らしたり、お風呂の残り湯を利用したりすことはもちろんのこと、こうした生活排水(下水)からできた「再生水」を自治体や公共施設、大型ショッピングモールなどが利用することに賛同したり、興味を持ったりすることも必要な行動です。
3.共感|水の日について考える
毎年3月22日は国連が定めた「水の日」です。環境問題に比較的関心が高い人でも、この水の日に節水につながる行動をしたり、イベントに参加するなどしている人はまだ少ないかもしれません。節水は一年365日必要な行為ですが、こうした日をきっかけに、家族や友人と水にまつわるイベントへ出かけたり、SNSなどにあるコミニティに参加したり「水の日」についてみんなで考えてみましょう。
4.寄付|水不足の地域への募金
世界の水不足は飢餓や貧困、衛生状態の悪化による健康被害など、様々な問題の原因にもなっています。安全な水を日常的に確保できれば、飢餓も貧困も健康被害も今よりもっと減らすことができるのです。日本にいながらこれらの問題に貢献できる方法の1つが、ドネーション(寄付)でしょう。
国連唯一の食糧支援機関の国連WFPやユニセフ、水不足の問題に力を入れている国際NGOや認定NPO法人などは、年間を通して水不足や飢餓にあえぐ国や地域を支援しています。寄付またはこれらの団体の活動を理解し、応援することで世界の水不足の解消に私たちも一歩近づけるはずです。
まとめ
ここまで世界の水不足の問題についてお伝えしました。世界的な水不足の原因は、気候変動だけではなく、人口の増加や水の使い過ぎなど、私たち人間の暮らしにも原因があることがわかりました。特に輸入に頼り切っている私たち日本人は、今後のライフスタイルを見直すことも考えねばならないでしょう。世界が決めた「SDGsの水にまつわる目標」が2030年より前倒しで解決できるように、みんなで取り組んでいきましょう。
参考・引用文献
国立研究機関開発法人 国際農林水産業研究センター | 951.水不足への解決へ〜水資源の拡充と多様化
GLOBAL NOTE | 世界の水使用量 国別ランキング・推移(2024年7月)
公益社団法人 日本経済研究センター | インド、人口世界一の憂鬱(2023年6月)
日本貿易振興機構(JETRO) | インド全土の4割以上が干ばつ状態に 深刻化するインドの水不足とモディ政権の取り組み(1)(2019年7月)
国土交通省 | 世界の水資源
公益財団法人 水道技術研究センター | 世界の生活用水使用量マップ
国連UNHCR協会 | シリア危機
ミツカン | 水と生活・文化
内閣官房 水循環政策本部事務局 | 令和5年版 水循環白書 参考資料
気象庁 | 日本の年降水量
国土交通省 | 令和5年版 日本の水資源の現況について
環境庁 | バーチャルウォーターとは
ユニセフ | SDGs17の目標
ユニセフ | 3月22日は「世界水の日」 気候変動や紛争で悪化の一途をたどる水の危機 46年ぶりに国連水会議も開催
WWFジャパン | 水環境および淡水生態系の保全について(2019年12月)
WWFジャパン | 日本が世界の水環境に及ぼす影響を明らかにする「ウォーターフットプリント」(2021年3月)
林野庁 | 水を育む森林のはなし(2021年3月)
東京都水道局「みずふる」 | 多摩川水源森林隊(2021年3月)
JICA | 水資源分野の詳細情報
JICA | 生物浄化法 解説・操作・維持管理の指針
ユニセフ | ユニセフの主な活動|水と衛生