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環境問題が魚・人に与える影響と対策を解説! 私たちにできることは?

環境問題が魚・人に与える影響と対策を解説! 私たちにできることは?

海の環境問題は魚に悪影響を及ぼすだけでなく、間接的に人々の暮らしまで脅かしています。企業が率先して対策を打ち出し、個人が身近にできることを実践していかなければ、健康や産業などに深刻な被害が生じるかもしれません。

 

今回は、魚の環境問題が魚や人に与える影響と対策などを中心に解説します。魚の環境問題に関心がある方、解決のヒントが知りたい方はぜひ参考にしてみてください。

魚に影響を及ぼす環境問題

 

 

魚に影響を及ぼす環境問題は1つだけではありません。適切な対策を実施するには、それぞれの問題を把握し、原因を見極める必要があります。

 

まずは魚に影響を及ぼす環境問題として、海洋プラスチックごみや、海洋酸性化、海水温の上昇について解説します。

 

海洋プラスチックごみ

海洋プラスチックごみとは、海に流出したプラスチックごみのことを指します。漂流ごみとして、風や海流などによって遠くまで広がるだけでなく、流出する多くのプラスチックが海底に沈むことで、生態系や海洋環境を悪化させる環境問題として危惧されています。

 

海洋プラスチックごみの大きな原因は、私たちが日常で使っているレジ袋やペットボトルなどです。

 

海に到達したレジ袋やペットボトルは、長期間にわたって紫外線や波によって細かく破砕され、5mm以下の小さな断片であるマイクロプラスチックに変わります。

 

打ち上げられたごみや沈んだごみと違って視認できず、一般的なボランティア清掃などでは除去できません。魚が誤って食べてしまうリスクもあり、魚の環境問題と深く関連していることを知っておく必要があります。


[参考]

海洋プラスチックごみ問題(浜松市)

海洋プラスチックごみ(環境省)

海洋酸性化

海洋酸性化とは、海洋のpH(※)が長期にわたって低下して酸性に向かう現象です。大気中に放出されたCO₂が海洋に溶け込み、水素イオンが増加することが原因とされています。

画像引用:海洋中の二酸化炭素(気象庁)

 

海洋表層でCO₂が吸収されると、上記図の通り(1)と(2)の化学反応が進み、水素イオンが発生します。

 

CO₂は海洋循環や生物活動によって海洋内部に流入・蓄積する恐れもあります。すでに海洋表層だけでなく海洋内部での酸性化も進行しているようです。

 

より深い場所まで酸性化が進行してしまえば、さまざまな種類の魚に影響が及ぶでしょう。

 

※水素イオン濃度の逆数の対数で定義される値。値が小さいほど水素イオン濃度が濃く、強い酸性であることを示す。


[参考]

海洋酸性化とは(気象庁)

 

海水温の上昇

海水温の上昇は、海洋・大気の変動や地球温暖化等の影響が重なり、海面の水温が従来よりも高くなることです。

画像引用:年平均海面水温(全球平均)の平年差の推移(気象庁ホームページ)

 

気象庁のデータによると、令和5年(2023年)の年平均海面水温の平年差は+0.40℃であり、統計を開始した1891年以降で最高値を記録しました(平年値は1991年~2020年の平均)。長期的な傾向では100年あたり0.61℃上昇しているとのことです。

 

海水温が高まると、大気から海水に溶ける酸素量の限界値(溶解度)が低下するため、貧酸素化(※)も進行するといわれています。

 

魚も人間と同様に酸素なしでは生きられません。海水温の上昇も魚の環境問題を考えるうえで避けては通れない現象です。

 

(※)貧酸素化:広範囲に海底近くの海水から酸素がほとんど無くなる現象。 海底付近の生き物は、酸素飽和度が約40%以下の貧酸素状態になると、正常に生活できなくなるという。魚やエビ・カニが逃げる、移動できない貝は死に至るなど、水産生物資源や漁業に大きな被害が生じる。


[参考]

海面水温の長期変化傾向(気象庁ホームページ)

海洋酸性化とは(気象庁)

 

環境問題が魚に与える影響

 

 

ここまで魚に影響を及ぼす環境問題として、海洋プラスチックごみや海洋酸性化、海水温の上昇などについて解説しました。

 

それぞれの環境問題が魚に及ぼす影響の詳細が気になってきたでしょう。引き続き、環境問題が魚に与える影響について解説します。

 

誤食による健康被害

マイクロプラスチックの誤食は、海洋生物に炎症反応や摂食障害などをもたらすといわれており、魚に同様の健康被害をもたらす恐れがあります。

 

とはいえ、魚は本当にマイクロプラスチックを誤食するのか、疑問に思う方もいるかもしれません。

 

長崎大学水産学部では、マイクロプラスチックを池の水で約4か月間培養した実験を行ったところ、キンギョが新品より野外に漂流したマイクロプラスチックを好むことを発見しました。

 

マイクロプラスチックは「野外での漂流期間が長いほど魚に好んで誤食される傾向がある」ことが明らかになり、仮説の一部が支持されています。

このまま海洋マイクロプラスチックが増え続ければ、魚の健康被害もより深刻になっていくかもしれません。


[参考]

野外に捨てられたプラスチックが魚を誘惑する!? −マイクロプラスチックの摂食メカニズムの一端を解明−(長崎大学)

海が汚染され、海の生物も人も危ない! マイクロプラスチック汚染問題とは(千葉商科大学)

 

生殖機能やふ化率の低下

酸性物質が生態系に与える影響に関する研究によると、酸性環境下では魚の生殖機能の低下が見られることが判明しています。

 

たとえば、アユはpH5.2において産卵ならびに排卵が阻害され、メダカはpH3.9以下で産卵が停止したとのことです。比較的弱く短期的な酸性環境でも、魚類の繁殖を妨げることが危惧されています。

 

そのほか、マコガレイの受精卵を酸素濃度別にふ化試験した実験では、一定濃度以下でふ化率が著しく低下したことも報告されています。

 

海洋酸性化による生殖機能の低下、貧酸素化(海水温の上昇)によるふ化率の低下が深刻になれば、貴重な魚種が大幅に減少、最悪の場合は絶滅する事態も想定できるでしょう。


[参考]

酸性物質の生態系に与える影響に関する研究(環境省)

東京湾の貧酸素水塊による影響解明と漁業被害防止策の提案に向けて(水産庁)

 

生息域の変化と仔稚魚の死滅

海水温の上昇は魚の生息域を変化させる要因として知られており、未成魚・成魚は生息に適した水温帯に移動しやすくなります。

 

実際に日本周辺では海水温の上昇によって、北海道におけるブリの豊漁やサワラの分布域北上など、生息域の変化に関する事象が顕在化してきているという報告もありました。

 

生息域の変化だけであれば魚に対して悪影響はないように思えるかもしれません。

 

しかし、仔稚魚に関しては移動力に乏しく、生存に適さない水温環境から離れることができません。生残率が低下し、個体数が大きく減少するリスクも高まります。

 

海水温の上昇は魚の生息域を変えるだけでなく、生存を左右する環境問題であることも理解しておきましょう。


[参考]

漁場環境をめぐる動き(水産庁)

気候変動に対応した漁場整備方策に関するガイドライン令和4年6月改訂(水産庁)

 

魚の環境問題が人に与える影響

 

人は、魚を食べて生きているだけでなく、漁業を生業として暮らすこともあります。

 

そのため、魚の環境問題は人にも悪影響を及ぼす恐れがあります。魚の環境問題を自分事としてとらえるには、人に及ぼす影響まで知っておくことが不可欠です。

 

ここでは魚の環境問題が人に与える影響について解説します。

 

健康被害

マイクロプラスチックを魚が誤食してしまうリスクが高いことをお伝えしました。マイクロプラスチックを食べた魚は、食物連鎖の過程で生物濃縮される恐れがあります。

 

マイクロプラスチックが濃縮された魚を人間が食べれば、人の体内にマイクロプラスチックが入り込んでも不思議ではありません。

 

実際に危惧される事態がすでに起こり始めており、マイクロプラスチックよりも小さいナノプラスチックが、国内の複数人から採取された血液中で検出されたという報告が出てきました。

 

プラスチックに添加する紫外線吸収剤やポリ塩化ビフェニールといった有害化学物質も検出されたとのことです。

 

このままマイクロプラスチックが海中に増え続ければ、人が魚を食べられなくなる未来がやってこないとは言い切れません。人の健康被害を防ぐためにも魚の環境問題は後回しにしてはならない課題だとわかります。


[参考]

国内で初めて、人の血液から「ナノプラスチック」検出 1人の臓器からは有害化学物質(Japan 2 Earth)

 

産業被害

海水温の上昇によって魚の生息域が変化することをお伝えしました。日本周辺海域の温度が上昇したとき、日本各地あるいは日本全体の漁獲量が減ってしまう事態も想定できます。

 

当然、魚が獲れなくなった地域では、漁業で生計を立てることが難しくなります。後継者が減り、漁業が衰退するかもしれません。

 

すでに日本の漁業・養殖業の生産量は、1984年をピークに1988年から1995年ごろにかけて急速に減少し、その後もゆるやかに減少し続けています。2021年には、サケの漁獲量は約5.4万トンで過去最低レベルを更新しました。

 

水産庁の検討会の取りまとめによると、サケの生息域全体の海洋環境は地球温暖化等による海水温上昇が続き、日本周辺ではサケに不適となる環境の継続および悪化が懸念されています。

 

海水温の上昇がこのまま進行し続ければ、産業被害が深刻になるかもしれません。


[参考]

漁獲量が減少している理由を教えてください。(農林水産省)

海洋環境の変化に対応した漁業の在り方に関する検討会取りまとめ令和5年(水産庁)

 

貧困被害・密漁被害

日本では魚が獲れなくなっても、お米やパン、野菜、肉など、そのほかの食べ物を食べれば生きていけます。

 

その一方で発展途上国では、魚に依存した生活をする人々もいます。

 

世界で30億人以上の人々は海洋資源に依存して生活しており、そのほとんどが発展途上国に住んでいます。発展途上国の約3割が動物性たんぱく質を水産物に依存しているとのことです。

 

海温の上昇により生息域が変化して魚が獲れなくなれば、ほかの食料を自給自足できない限り、貧困に陥るリスクが高くなります。

 

マイクロプラスチックによる健康被害どころか、食糧難による餓死の問題にもつながりかねません。

 

当然、生きるためには魚を獲らなくてはならず、密漁が発生するリスクも想定されます。漁場を確保するために魚の奪い合いが発生しないとも限りません。魚の環境問題が紛争の火種や国際関係悪化の原因になることもあるでしょう。


[参考]

569. 持続可能な小規模漁業を人類と地球のために(国際農研)

 

魚の環境問題を解決するための企業の対策

 

魚の環境問題は魚に被害を与えるだけでなく、人にも悪影響を及ぼすことがおわかりいただけたでしょう。

 

大きな会社であれば、企業活動が魚の環境問題に密接に関与することもあります。場合によっては間接的に人に害をもたらすこともあるでしょう。

 

企業の関係者であれば、特に魚の環境問題の対策について深く知っておくことが重要です。

 

引き続き、魚の環境問題を解決するために企業が着目すべき重要な対策を解説します。

 

CO₂削減

魚の環境問題として海洋酸性化について取り上げましたが、原因は大気から海中に吸収されるCO₂でした。

 

大気中二酸化炭素濃度については、気象庁の観測地点である綾里や南鳥島、与那国島で計測されています。

画像引用:気象庁の観測点における大気中二酸化炭素濃度の経年変化(気象庁)

 

いずれの観測地点でも季節変動を繰り返しながら大気中二酸化炭素濃度は増加しています。

 

ちなみに2022年の大気中二酸化炭素濃度の世界平均は、前年比で2.2ppm増加し、417.9ppmでした。工業化以前(1750年)の平均的な値(約278ppm)と比較すると50%増加しているとのことです。

 

世界全体で大気中二酸化炭素濃度が増加すれば、海中に溶け込むCO₂が増加しても不思議ではありません。また、二酸化炭素は温室効果ガスとしても知られており、地球温暖化による海水温の上昇にも関与している可能性があります。海洋酸性化・海水温の上昇を食い止めるには、CO₂削減に取り組むことが重要です。

 

最近ではCO₂排出を大幅に削減する対策としてカーボンリサイクルが注目されています。CO₂を炭素資源と捉えて回収し、さまざまな炭素化合物として再利用するアイデアです。

 

魚の環境問題の対策を検討している企業は、カーボンリサイクルの取り組みを事業に織り交ぜてみてはいかがでしょう。


[参考]

大気中二酸化炭素濃度の経年変化(気象庁)

カーボンリサイクルについて(資源エネルギー庁)

 

サステナブルな製品への置き換え

魚がマイクロプラスチックを誤食してしまうトラブルを防ぐためには、海洋に流出するプラスチックを減らせるよう、サステナブルな製品への置き換えが対策として重要です。

 

たとえば、私たちの日常生活では飲み物を飲むときにプラスチックストローが使われます。

 

最近ではプラスチックストローに代わるサステナブルなストローとして、紙ストローが導入され始めています。

 

通販サイトなどでも、すでに脱プラスチックを意識して購入する方が増えてきました。プラスチックストローと変わらず使いやすいという評判も見受けられます。

 

企業が率先して紙ストローのようなサステナブル製品を導入すれば、プラスチック削減によりマイクロプラスチックの漂流を大幅に抑えられるかもしれません。

 

ストローに限らずプラスチックを用いた製品はたくさんあります。紙などのサステナブルな製品に置き換えできるプラスチック製品がないか、事業プロセスを見直ししてみましょう。

 

プラスチックの回収とリサイクル

サステナブル製品が普及しているからといって、プラスチックの利用が完全になくなるわけではありません。プラスチックごみの海洋流出を防ぐためには、プラスチックの回収とリサイクルも不可欠です。

 

プラスチック回収・リサイクルを促進するためには、回収拠点を増加させる取り組みが必要になります。回収拠点が増加すれば、消費者が使用済プラスチック製品の分別回収に協力しやすくなり、事業者も効率的にリサイクルできるようになるでしょう。

 

回収拠点の例としては、化粧品の空容器の回収ボックス、おもちゃの回収ボックス、ペットボトルの自動回収機、歯ブラシの回収ボックスなどの例が挙げられます。

 

施設や建物の内部を見直せば、回収ボックスを置ける空きスペースが見つかるかもしれません。企業の関係者であれば、魚の環境問題を解決するために、使用済みプラスチック製品の回収拠点を増やしてみてはどうでしょう。


[参考]

製造・販売事業者等による自主回収・再資源化(環境省)

 

 

魚の環境問題に関して私たちにできること

 

魚の環境問題を解決するために企業が着目すべき対策をお伝えしました。

 

企業の立場だけでなく、地球で生きる個人の立場でも、魚の環境問題と向き合う必要があります。

 

個人としてできることを考えることで、事業で思い浮かばなかった新たな解決策が得られることもあるでしょう。

 

以降は、魚の環境問題を解決するために私たちにできることを解説します。

 

海へ足を運び今を知る

魚の環境問題を解決するには、まず私たちが海の現状を知る必要があります。

 

とはいえ、目的なしに遠出して海に行くのは、ハードルが高いかもしれません。ハードルを下げるためにも海を楽しむ姿勢を持つとよいでしょう。

 

たとえば、長期休暇に海辺のきれいな旅館に泊まって、海岸の散歩を楽しんでみます。ごみが多い場所に遭遇したら海洋汚染を身近に感じられるでしょう。

 

海釣りをすれば、現地で不漁の実態もわかるかもしれません。魚の環境問題を解決する必要性を実感できるはずです。海に足を運んで今を知りましょう。

 

正しい知識を身につける

魚の環境問題は人の無知によって引き起こされます。

 

今回紹介したマイクロプラスチックが魚や人に与える影響を知らなければ、日常生活でプラスチックを使い続けてしまいます。マイバッグを用意せず、有料のレジ袋を利用し続ける人もいるかもしれません。ますます海洋中を漂うマイクロプラスチックが増え続けるでしょう。

 

その点、魚の環境問題の実態や原因、対策など、正しい知識を獲得すれば視点が変わります。自分の行動を少しずつ変えていけるはずです。

 

魚の環境問題を解決するために正しい知識を身につけることを意識しましょう。

 

新しい情報を収集する

魚の環境問題を解決するために、政府や研究機関がさまざまな実験を行い、新たな知見を生み出しています。

 

従来の仮説が誤りであったことも判明するかもしれません。誤った情報をもとに対策を行えば、環境問題を悪化させてしまうでしょう。

 

古い考えでは魚の環境問題に正しく対応できません。新しい情報を収集して正しい対策を行うことが重要です。

 

その点、近年はインターネット環境が充実しており、環境問題に関する知識をWebメディアを通して収集できます。

 

本記事が掲載されているカンキョーダイナリーもその1つです。カンキョーダイナリーは誰でも環境問題を学べる場として、日々の暮らしの中で取り組める身近なアイデアから、環境ビジネスに役立つ情報まで発信しています。

 

ほかに魚の環境問題を解決するヒントが得られる記事も見つかるかもしれません。気になった方はぜひほかのテーマの記事についてもチェックしてみてください。

 

まとめ

 

魚の環境問題は、海洋プラスチックごみや海洋酸性化、海水温の上昇などによって引き起こされています。

 

マイクロプラスチックの生物濃縮による人への健康被害や、魚の生殖機能の低下・生息域の変化に起因する漁獲量減少による産業被害なども想定されます。

 

サステナブルな製品への置き換えによりプラスチックの使用を減らしたり、カーボンリサイクルの推進によってCO₂削減に取り組んだりすることが大切です。

 

魚を取り巻く環境問題について正しい知識を身につけ、私たちにできることを少しずつでも実践していきましょう。

 

 

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ライター

常木城伸(つねきしろのぶ)

ビジネスに特化したWebライターとして活動し、各社のオウンドメディアに記事を投稿。執筆テーマは環境問題やSDGs、DX、ESGなど多岐にわたる。水質関係第1種公害防止管理者やFP二級技能士、第三種電気主任技術者、基本情報技術者などの資格を保有

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