長野県松川村で、100%プラスチックフリー包装の無農薬野菜セットや固形石鹸の販売など、持続可能な世界の実現に向けて幅広く活動する北アルプス高橋農園の高橋早紀さんにオンラインでインタビュー。これまでの取り組みや、地球に優しい生活の実現への想い、農業におけるプラスチックの問題などについて伺いました。
さらに、オンラインでのインタビューから1年後、スタッフが実際に長野県松川村を訪れて対面で伺ったお話も、一緒にお届けします!
持続可能な農業に取り組む理由
北アルプス高橋農園の特徴は?
無農薬・有機栽培で、主に米・豆・小麦・雑穀などの穀物を作って販売しています。農薬を使わず、土の状態によっては無肥料のところもありますし、土の力がないところや耕土が浅いところでは有機肥料を入れて作っています。
私は新潟で夫は青森出身ですが、なんとなく「長野がいいな」と思い、住む場所を探していたら松川村に辿り着きました。夫は実家がりんごと米の専業農家でしたが、農薬を使う慣行栽培ではなく、無農薬・有機栽培でやりたいということで、移り住んだ長野で有機農業を始めました。私は非農家で、環境問題から農業に入りました。
有機農業とは?
日本では「有機農業の推進に関する法律」で、
①化学的に合成された肥料や農薬を使用せず
②遺伝子組換え技術を利用せず
③環境への負荷をできる限り低減した
方法で生産が行われている農業のことを「有機農業」と定義しています。
「有機」や「オーガニック」という言葉が広く知られるようになった一方で、技術習得の難しさや・管理の手間・有機JAS認証にかかるコストなど、さまざまな困難があるのも現状。有機農家さんの努力を知ると、食べ物をより深く味わうことができそうです。
慣行農法ではなく、有機栽培を選んだ理由は?
私も夫も海外を20カ国以上旅してきたのですが、その中で地球の環境破壊を目の当たりにし、環境問題を解決する行動を何かしたいと思っていて、農業がその一つでした。様々な情報を得ていった結果、環境問題を解決するためには有機農法が効果的であることを知り、有機農法を選択しました。
海外だと道端にゴミがたくさん落ちていたり、綺麗な海と言われるバリやフィリピンに実際に行くと、プラスチックのゴミが浮いていて汚かったり。あとは行く土地土地の人が気候変動を感じていると知って、「今すぐ行動しないと地球はやばいんじゃないか」と思って今に至ります。
↑海外を旅していた当時の写真
一番衝撃を受けたのは、離島に行く船で目の前に座っていたカップルの女の子が海にペットボトルのゴミを捨てたこと。それを見て、捨てることに悪い意識がなく「彼氏の前でもゴミを捨てるんだ」っていうのがショックでしたね。
4歳になる息子は、私が外でゴミを拾うのを見ているので、良い悪いの条件なしに「ゴミは拾うもの」と思っていて、2歳くらいからゴミを拾っていました。「ゴミは捨てちゃいけない」「地球に優しい生活をする」という意識を持つ人が増えれば、周りもそうなっていくんじゃないかな、と思って私も行動しています。
\世界の環境意識ってどうなっているの?/
農業と地球環境はどのように関係しているのですか?
農業と地球環境の間には様々な問題があります。例えば野菜とプラスチック包装。農家が作った野菜はプラスチックの袋に個包装して売られていますが、私はプラスチックを出したくないので、プラ包装が必要なスーパーや直売所で農産物は販売していません。
↑プラスチックフリーでの野菜販売
農薬や化学肥料は、地球環境にも体にも良くないです。使い続けていると土の中の微生物がいなくなってしまいます。私たちも色々な土地を借りていますが、化学肥料と農薬を使い続けていた土は硬いので、ここで作った野菜は美味しくない、と作る前から分かります。微生物がいるところは土がフカフカで、有機肥料を入れると分解も早く、いい具合に作物の栄養になります。土が柔らかいから根もよく伸びて、良い野菜ができます。
農薬や化学肥料だけを使っていると、どんどん土が痩せてしまいます。今はまだ農薬と化学肥料が入ってきて数十年しか経っていないので野菜は作れていますが、ずっと続かないことは、土を見て分かる人には分かると思います。
日本人の価値観の問題もあると思いますが、スーパーに行ったらキレイな野菜しか売っていないですよね。キレイな野菜を作るためには農薬を使った方が簡単だし、同じ大きさの野菜を作るには化学肥料が調整しやすいので使っているんだと思います。
\持続可能な農業のヒントは●●に?/
SDGsやサステナビリティについて農業の世界で変化は?
私は農業を始めて6年、専業農家になってまだ3年目ですが、この6年だけでもオーガニック需要はすごく伸びているのを感じます。ありがたいことに、うちの農産物は全部売れていて、お客さんもどんどん増えています。
ただ、やっぱり有機農家や自然栽培農家はまだまだ少ないです。なので3年も専業農家をやっていれば、地域で有名になってくるので、ある程度発信を続けていると自然に集客できると思っています。
「地球にやさしい農業」では、具体的にどのような点に注目しているのですか?
緑肥を取り入れています。緑肥にはいろいろな種類がありますが、例えば緑肥の一つ「えん麦」は、ある程度まで育てて刈ったものを土に鋤き込むと、微生物に分解されて土がふっくらし、後作の作物の栄養にもなります。また、空気中の炭素を土中に取り込む効果もあります。
畑に残り続ける「一発肥料」
一発肥料とは、植え付けをする時に一度撒いてしまえば、本来は農作物の成長にあわせて撒く必要がある肥料が必要なくなる、農業界の便利グッズ!…なのですが、実は肥料を覆っている「被覆殻」はプラスチック製で、写真のように浮いてきてしまいます。商品によっては「比較的短期間で微生物分解する」とされていますが、高橋農園の田んぼでは数年経ってもしっかり残っているのが現状。そのため、高橋農園では環境に配慮した肥料を選んで使用しています。
また、野菜は自給自足+少し販売できるくらいの量しか作っていませんが、3年前くらいからビニールマルチ※を完全にやめて、草マルチに変えました。現在はビニールマルチを利用した野菜づくりが一般的ですが、草マルチでは生えてきた草を刈って植物の周りに敷いてあげます。そうすることで、地温調節・雑草抑制・乾燥防止・病気予防・土壌微生物の活性化などのメリットがあります。ビニールマルチに比べたらとても手間はかかりますが、やる価値はあることだと思っています。
※マルチ(マルチング)フィルム|土壌水分の蒸散、雑草、肥料の流出、土壌中の病原菌による被害などの抑制を目的に、作物の株元を覆うフィルム。
↑ビニールマルチではなく、草マルチを使用。草マルチでは生えてきた草を刈って植物の周りに敷いてあげます。
\大学生が真剣に考えるプラスチックとの向き合い方/
エシカル商品の開発ストーリー
農作物だけでなく、エシカル商品に目を向けたきっかけは?
「環境に優しい暮らしがしたい」という気持ちから農業を始め、3年で野菜や穀物、調味料、化粧品の自給自足ができるようになりました。それでもまだ自分が思っていた以上にプラスチックのゴミが出ていて、「こんなに自給自足したのにまだ出るのか」と落胆。プラスチックを減らすにはどうすればいいのか、自分の生活を見直したところ、洗剤やシャンプー・リンス、洗顔のプラスチック容器が大きくて、そこは減らせるなと思いました。
全て石鹸1つで事足りる紙包装の石鹸を探していたのですが、商品が少ないのと、これなら使っても良いと思える原料でできた石鹸がなかったので、「ないなら作るか」と思って作りました。なので自分が欲しい石鹸を作ったという感じです。
「米ぬか石鹸」は障がい者福祉施設との共同開発
輸送にかかるCO2を考慮して長野県内で作りたいと思っていたので、県内で石鹸が作れるところをネットで探していたところ、障がい者の方が働くねば塾という石鹸製造をする福祉事業所にたまたま出会いました。ねば塾さんは石鹸づくりのプロなので、私の意見を伝えてオーダーメイドで作っていただきました。
「持続可能な世界にあったらいいな」という想いで作った商品ですが、米ぬか石鹸のおかげでインタビューを受けたり、インスタグラムで色んな人と繋がったり、見たことない世界を体験できているのを感じています。
実際にスタッフが使ってみました!
高橋さんからのご好意で、お土産に頂いた「米ぬか石鹸」をスタッフが自宅で使ってみました。オーガニックの石鹸類は泡立ちが心配なイメージでしたが、しっかりと泡立ち優しく手を洗うことができました。
原材料にこだわり、無駄なものを使っていないので、手洗いはもちろん、固形シャンプーや食器洗剤の代わりとしても使用可能。プラスチックフリーの包装がとてもおしゃれで、ちょっとしたプレゼントにもおすすめです!
\【事例】エシカル商品はこうして生まれる!/
プラスチックフリーと紙化へのこだわり
地球に優しいALL紙製のプラスチックフリー梱包ですが、そこにはどんな想いが込められているのでしょうか?
商品を作るにあたって「持続可能な商品にする」というテーマが自分の中にあったので、プラスチックという選択肢はなく、紙のクッションシートを使っています。今の日本だと品質の面で厳しいこともあると思いますが、自分ができることはプラスチックフリーにしたいなと思っています。
プラスチックフリー包装の悩み
高橋さんが商品や農作物の梱包をする時に気になるのが「初めて買ってくれるお客さんにとっては、中身が見えた方がいいのでは?」ということ。できる限りプラスチックを使わない包装をしている高橋さんですが、お客さんのことを考えて、穀物など一部の農作物のパッケージには窓付きの袋を利用しているそうです。
環境と消費者への配慮をどちらも忘れない高橋さんの想いを伺い、紙加工メーカーである私たちも、封筒のようなセロハンで窓を付けたパッケージの開発や、蝋引きした半透明の紙の用途開発など、紙で対応できることを増やしていきたいと感じました。
\紙袋屋が考える、紙と環境の関係とは/
マルチや育苗ポットなどプラスチックと農業は切り離せないように思えますが...
育苗ポットについては花の苗を買った時についてくるプラスチックのポットを大事に使っています。紙製のポットは市販されていますが、日常的に使える値段のものには出会えていません。私もプラスチックをなるべく減らしたいので、新聞紙で育苗ポットを作ったことがあるのですが、毎日水をあげていると破れて土が育苗ポットの中から出てきてしまいました。水をかけても破れない植物を素材とした育苗ポットが作れたら良いなと思います。
↑紙製の育苗ポット
読者の方へのメッセージ
高橋さんが目指す未来とは?
「地球1個分で足りる持続可能な農業」を目指しています。例えばCO2をなるべく出さないことは大切ですが、植物の成長にはCO2は必要ですし、生きているからには車などでの遠出もしたりして楽しく過ごしたいので、環境への負荷が「地球1個分まで」ということを意識して生活したいと思っています。
持続可能な地球のために起こして欲しいアクションは?
まず、農家になりたい人はぜひ農家になってもらいたいです。あとは「自給自足」がフードロスや、地産地消、プラスチックフリー、飢餓などの様々な問題を直接的に解決できると思っていて、インスタグラムでは自給自足する人が増えるような投稿を意識しています。
都会暮らしで田畑が近くにない人は、キッチンやベランダで育てるのも良いと思いますし、土を触るのには向いていないと思う人は味噌などの加工品づくりもおすすめです。材料を全て農家から買って1年分の味噌を作るだけで、味噌の容器になっているプラスチックを減らせます。
いろいろな自給自足の形があるので、自分の心が向いたやり方を取り入れることによって、気分良くエコが続けられると思っています。
\マンションのベランダでできる家庭菜園/
\地球1個分の暮らしの実現方法は?/
編集後記
北アルプス高橋農園さんとカンキョーダイナリーの最初の接点はインスタグラム。環境に関する本を紹介する環境ライブラリーのポストを見てフォローしてくれたそう。「商品を売っているだけのアカウントよりも入りやすかった」というコメントを頂き、運営担当としてとても嬉しかったです。また、試作した「紙製育苗ポット」をお見せし、農家さん目線での貴重なご意見も頂くことができました。
実際に長野県松川村でお会いした時にも、田植えの忙しい時期にも関わらず、ご夫婦で田んぼの案内や資材の説明などを快く引き受けて下さいました。高橋さんの今後の目標や、カンキョーダイナリーを運営する大昭和紙工産業が取り扱う紙が、農業分野で環境に貢献できることなど、様々な視点から持続可能な世界に向けた意見交換をさせて頂き、とても充実した時間になりました。