世界中で拾い集めた段ボールを、おしゃれで使いやすい財布やコインケースにアップサイクルする島津冬樹さん。大手広告代理店に入社後も募り続けた「段ボール愛」を原動力に、「段ボールアーティスト」や「段ボールピッカー」の肩書きで活動する島津さんに、カンキョーダイナリーがインタビュー。
#1では、現在の「段ボールピッカー」としての活動に至るまでの経緯や、拾い集める中で知った世界の段ボール事情、段ボール財布のこだわりのポイントを伺いました。
成功ルートのない「世界中の段ボールを拾う旅」
Carton Pickerとして活動する島津冬樹さん。
簡単な自己紹介をお願いします。
島津冬樹です。普段は落ちている段ボールから財布を作ったり、その財布を色んな人に作ってもらえるようにワークショップを展開しています。「拾う」というところに重きを置いて世界36カ国の段ボールを拾い集めているので、自分の肩書きとしては「Carton Picker|段ボールピッカー」と呼んでいるんですけど、分かりにくかったら段ボールアーティストを使っています(笑)
段ボールを拾い集める方に重きを置いているんですね。
そうですね。アートって言うとすごく広くて便利な言葉ではあるんですけど、僕は作品というよりは実用的なものを作っていて、なおかつ僕だけが作れるものではなくて、色んな人が作れるものにしたいんです。
段ボールでのものづくりは多摩美術大学在学中にスタートしたそうですね。
大学2年生の時に自分の財布がボロボロになってしまったんですが、それと同時期にスーパーでおしゃれな段ボールを見つけて、何かに使えないかと思って家にとっておいたんです。それを財布が壊れたタイミングでなんとなく間に合わせで作ったのが最初の段ボールの財布です。
使わなくなった段ボールでお財布を作ったり、紙袋から収納ボックスを作ったり。いらなくなったものをゴミとして捨てる代わりに、もとのものよりも更に価値のあるものに生まれ変わらせることを、アップサイクルと言います。
それが思いのほか使えるということにびっくりしました。多摩美は自分の作品を販売したり展示したりできる機会があるのですが、そこで財布を販売したらすごく好評で、先生に見せても「いいね」っていう声もあって。その時から段ボールで財布を作るということを思いつきました。
学生時代に展示・販売していた段ボール財布(写真提供:Carton Studio)
その翌年くらいに初めて海外に行ったのがニューヨークで、そこで見た段ボールがすごくかっこよかったり、日本とデザインが全然違ったり、捨てられ方も違ったんです。今までは財布を作るために段ボールを集めていたのですが、段ボールを集めたいという気持ちに変わりました。それをきっかけに「世界中の段ボールを拾ってみたいな」と思って旅をはじめました。
企業とのコラボや映画『旅するダンボール』などで、「旅」がキーワードとしてよく挙げられますが、島津さんにとって「旅」とはどんな存在ですか?
視点がそもそも段ボールにあって「段ボールを拾いに行く旅」なので、成功ルートはありません。色んな未知が詰まっているところに刺激があります。コロナ前は結構海外に行って、その度に色んな段ボールを拾っていました。段ボールを拾うプロセスによってインスピレーションを得ていて、最近は財布だけではなく、空間を作る仕事にも繋がっています。旅は、色んなヒントを吸収する場所です。
(写真提供:Carton Studio)
行き先はどのように決定している?
行ったことがないところっていうのが一つと、Googleマップを見て「この言葉面白そうだ」っていうところ。例えばミャンマーを見た時に言語がヒョロヒョロっとしていて面白そうだなって。そういう視点で「ここに段ボールはあるかな」っていうところから始まります。
来月はアゼルバイジャンとジョージアに行くのですが、ジョージアの言葉って結構面白いんですよ。言語が書かれたその国ならではの段ボールが好きなんです。スーパーとかローカルマーケットとかは下調べをしますが、行ってみないと本当に段ボールがあるのかないのかは分からないです。
世界36カ国で拾って知った段ボールのヒミツ
プラスチックや布など、他の様々な素材と比較した段ボールの魅力は?
まずは身近っていうところ。どんな家庭にも1、2箱は必ずあるので、小さい頃から工作とかで馴染みもあります。それと段ボールの個性。僕が発見したのは、デザインした人や、作った人、それを使っている農家さんとか、僕らが思っている以上に違う視点から段ボールに対する思い入れを持つ人がいること。
例えば、カナダではメープルリーフのシンボル愛が強く、国旗が描いてある段ボールが多いです。フロリダのグレープフルーツの箱は、一瞬何の箱か分からないデザイン。ベロビーチの出荷元に行ったのですが、段ボールにペリカンやイルカやジュゴンだけが描いてあるんです。なんでそれが描いてあるんだろうって紐解きに行くと、そこでは段ボールに自分の故郷のシンボルを反映することを大切にしていると分かりました。
箱をただ運ぶものとして見ているだけではないという、見落とされがちな段ボールの色んなストーリーを、好きになった以上は伝えていきたいなって思っています。
ダンボールを拾うとき、どんな基準で選んでいますか?
まず1つは<>「その国ならでは」があるかということ。日本の段ボールには日本語が書いてあるように、その国に行けばその国の言葉が書いてあります。フィリピンやエクアドル産のバナナのように、実は世界中にある段ボールもあるのですが、やっぱりそれ以外の段ボールを拾いたいですね。そのローカル感は、特産物や大体の国で段ボールに入っているピザの箱とかに出ます。あとは、なるべくくたびれているというか、「使われたな」っていう方が好きです。
海外と日本の段ボールではどんな違いがあるのでしょうか?
台湾で段ボールを欲しいって言ったら「何元か払え」って言われたんです。段ボールって日本だとみんなくれるけど、国によっては捨ててあったとしてもお金を払わなきゃいけないものだと知って結構衝撃でした。段ボールって捨てられているようで、実は次の使い方を考えている人もいて、人によって色々用途があることろには価値観の違いがあると思います。
あとは段ボールを集めて生活している人もいて、特に中国や東南アジアに多いんですけど、そういった人にとっては一箱一箱がお金になって日々の生活になります。リサイクルのインフラが整っていないからこそ、そういう人に集めてもらっているので、決してリサイクルの効率が良いわけではありません。
段ボール自体にも違いはありますか?
日本の段ボールはあまり色んな色を使わず地味なものが多く、海外の段ボールのような発色の良さがないのですが、水銀が使えないという理由があるようです。あとは、森林が豊富な欧米の段ボールはバージンパルプが多いので、日本の段ボールと比べると色やパリパリ感が全然違います。日本は再生紙が多いです。
バージンパルプを使用したアメリカの段ボール。
島津さんご自身で段ボールをデザインしたいと思うことはありますか?
デザイナーだった時期もありますが、自分では考えられないデザインを見すぎているんですよね。だからいざ自分がデザインしようと思うと色んな固定概念に引っ張られるし、今ある段ボールを超えられる気がしないというのがあります。段ボールのゆるいデザインっていうのは、デザインをやっていてもできない感覚なんだろうなって思います。
作っている人にフォーカスしていくっていうことが自分の気付きの一つになっています。これだけデザインもちゃんとしているのに、日の目を浴びずに捨てられていく、リサイクルするにしてもデザインはそこで終わりだから、その良さを伝えていく必要があると思っています。映画『旅する段ボール』にも登場したPOTATOの段ボールもデザインが変わる予定だったらしいのですが、映画がきっかけであのデザインを残そうということになったようです。
使いやすさ・デザイン性・耐久性にこだわる段ボール財布
自身で立ち上げたホームページ「Sip*」では、「必ず1日1作品つくってアップする」というルールを決められていたそうですが、ものづくりのアイデアはどこから得ているのですか?
ものを作るのは小さい頃から好きで、自分にとっては普通のことでしたが、大学で入った情報デザイン学科では、あまりものを作らなかったんです。「作りたい」というフラストレーションばかり溜まっていったので、大学で得た知識を生かしてホームページを自分で立ち上げて、スキルアップのためにPhotoshopで何かをつくるとか、その時閃いたものをアップしていました。
Sip*▶︎https://sipwork.snowisland9.com
実は段ボール財布もその過程の中で生まれています。作りたいという気持ちを持ち続けるのは大事かなと思います。サイトのいいところは、同級生とかもサイトを作っていたので、みんなでお互いのサイトを見合ったり、親がこっそりみていたりするところ。「あれ良かったね」って言ってくれるのが刺激になっていました。
島津さんの段ボール財布のポイントは?
段ボールの財布にはカードを入れていて、どこで拾った何の段ボールなのかが分かるようになっている。
使いやすさ・デザイン性・耐久性の3つを軸にしています。ゴワゴワしていた方が耐久性はありますが、段ボールを柔らかくする技術が...技術って言っても段ボールを潰すだけですが、使いやすさに繋がっています。
最近は財布の使い方も変わってきていて、長財布よりも小さい方が電子マネーを入れて使いやすかったり。僕も今はこのポーチタイプを使っています。カードケースとコインケースが個別に入っていて、手軽に持ち歩きたいときはカードだけにすることができます。
長財布にも変遷があって、初期のマジックテープを使ったものが1年近く使えたっていうことが、今の活動に繋がっています。複雑な財布を開発したりする一方で、簡単に作れる財布を作ってワークショップで教えたりもしています。不良品やワークショップで作ったものを使って、ちゃんと耐久性があるか、使い勝手はいいか、確かめるために使って試しています。
長財布以外に、コンパクトな財布も。
段ボールの手入れの方法はどのように覚えたのですか?
自分でどうしたらいいのかを考えて、手入れの方法を集めてきました。最初は折り財布一つとってもなかなか上手くできませんでした。例えば、最初の折り財布は段ボールを剥いで使っていましたが、中芯が縦向きだったんです。それだと紙の目の関係で縦に割れやすかったので、何世代かあとのものは横目にして、この方が使いやすいということを発見しました。最終形に近いものは2016年ごろに完成しました。
▶︎インタビューは#2に続きます。
「これかっこいいね。よく見たら段ボールだね。」を目指す島津さんが、「不要なものから大切なものへ」というコンセプトに至る幼少期の原体験とは。世界で集めた段ボールコレクションもご紹介。