効率的なモノづくりや正しい作り方など、調べればすぐに答えがみつかる現代において、あえて「形にすることを目指さない図工室」チョキペタスを主催する、中庄株式会社の刑部さんとアトリエヤマダの山田さん(*以下敬称略)にカンキョーダイナリーが特別インタビュー。
チョキペタスという場を通してお二人が感じる、自由に発想することの素晴らしさ、紙が持つ価値や、魅力についてお話をお伺いしました。
紙の遊園地プロジェクトについて
それぞれ自己紹介をお願いします。
刑部|
株式会社中庄は1783年から続く紙専門の卸商社です。何かを作っているわけではなく、メーカーさんが作った紙を印刷会社や出版会社等に卸す仕事をしています。和紙などを取り扱う小売店からスタートしたのですが、時代の流れとともに、業態は卸売りに、商材は和紙から洋紙へ変化し、今ではティッシュやトイレットペーパーなどの家庭紙用品も取り扱っています。
山田|
アトリエヤマダは「ワクワクをカタチに」をテーマに活動しています。もともとは劇団の美術やテレビのセットを作っていましたが、最近では地域の子どもたちと絵の具や段ボールといった身近な素材を使って、巨大絵本などの作品を作る活動がメインになりました。最近では自治体と連携した街づくりの企画にも携わっています。
紙の遊園地プロジェクトとは
刑部|
中庄とアトリエヤマダが取り組む、紙の魅力を再発見するアートプロジェクトです。紙の遊園地プロジェクトには3つの柱があります。1つ目が、カタチを目指さない図工室「チョキペタス」、2つ目がボードゲーム「サカッソ」、3つ目が全てのコンテンツを集約した「イベントの開催」です。2021年4月から「チョキペタス」がスタートし、参加してくれるお客さんや日本橋の方々、端材を提供してくれる企業さんなど、今では色々な人たちとのつながりが出来ています。
紙の遊園地イベントに来場するお客さんに配られる、会場マップ
コラボのきっかけは?
山田|
きっかけは中庄さんのTwitterの投稿でした。「ワークショップをやりたいけどどうしたら良いんだろう」というツイートをされていたので、「ウチとできるんじゃないですか?」というこちらの声かけからコラボがスタートしました。最初はそこまで考えて連絡したわけではないのですが、うちも段ボールを使っているので親和性が高いと感じていました。刑部さんの紙に対する想いを綴ったnote※の投稿も見ていて、熱い方だな、一回会ってみたいなと思っていました。
※note|クリエイターが文章や画像、音声、動画を投稿して、ユーザーがそのコンテンツを楽しんで応援できるメディアプラットフォーム(note公式参照)。
刑部|
もともと紙の問屋として、新たな可能性を模索していきたいという想いがあって、「日本橋に新たな想像拠点となる発信地をつくる!」という私たちのビジョンに、最初に反応してくれたのが山田さんでした。当時はTwitterを始めたばかりというのもあって、とにかくいろんなことを発信していたんです。いろんな人と関わっていくしかないと思っていました。
それまでも紙に興味がある人に対して紙を販売したり、製本教室を開催したりはしていたのですが、山田さんからこれまでとは違った構想を聞かせてもらい、「それ面白いんで全部やりましょう!」ってなりました。
私たちはモノづくりができるわけではないので、誰かと一緒に何かをしていくことでしか、新しいものを生み出すことは難しいんじゃないかと思っています。一方で、そんな立場だからこそ、できることがあるんじゃないかとも思っています。紙の遊園地プロジェクトが、どんどん人が集まって、みんなが楽しんで、ワクワクを一緒に作れる場所になっていったら嬉しいなと思います。
カタチにすることを目指さない図工室
チョキペタスについてお伺いできますか?
山田|
チョキペタスは、カタチにすることを目指さない図工室です。ものづくりの過程で出る端材を使って、地域の子どもたちに向けて、図工や創作を楽しむ空間を作っています。紙の遊園地プロジェクトの構想と、3つの柱はほぼ同時にできていて、そこから広がってストーリーができたのですが、もともとは、いろいろな素材を集めた図工室をやるという話をしたのが始まりでした。
チョキペタスで使われる、様々な種類の端材
大阪にあるアトリエヤマダのプロデュースするギャラリー(※西淀川アートターミナル)でも地域とイベントをやっていたので、日本橋でやったらどうなるんだろうと思っていました。普段やっている舞台美術の仕事では図面を描いてものづくりをしているのですが、一方で、図面がないこともやってみたいという想いがあったので、「カタチにしない図工室」を刑部さんに提案したところ、面白いって共感してくれたんです。
※西淀川アートターミナル|バスターミナル跡地を改装したアートスペース。地域のアーティストの芸術発表、ものづくり企業や地元住民、子どもたちがアートを身近に感じていただける企画を実施。
お客さんからの反応は?
刑部|
「カタチにすることを目指さない図工室」というのをうたっているので、親御さんの中には「何を作って良いか分からない」と言う方もいらっしゃいます。一方で、子どもたちは、最初から気になる端材を手にとってすぐに何かを作り始める子もいれば、最初はどうしようかな…とスローペースな子もいます。でも気が付けば終了までには何かしら出来上がっているんですよね。
チョキペタスで子どもたちが作る作品
山田|
今ってプラモデルみたいに作り方の段取りが決まっている遊びが多いですが、もしかしたらそうじゃない遊び方っていうのが、子どもたちにとっては欲しかった要素だったのかもしれないですね。道具の使い方などは、現場のスタッフが適宜サポートはするのですが、糊でつかなかったら目の前のテープで貼りつければいいんです。初めてチョキペタスにきた子どもたちには、作り方の具体的なアドバイスはできるだけせずに、ある程度見守ることで、子どもたちは自分で作り出します。
子どもにとって絶対楽しいと言うことは分かっていたので、そこは想定内でした。素材も集まってくれば自然と企業さんとのネットワークもできるので、その中で紙の新しい価値を提案できれば良いなと思っています。あと、子どもたちから手紙をもらったことがあります。別のイベントの時にチョキペタスに参加した子から「チョキペタスさんへ。図工楽しい。毎日やりたいのでまたお願いします」って。嬉しかったですね。
チョキペタスの会場風景
廃棄予定の端材を使う理由は?
山田|
大阪の実家では祖父の代から鉄工所をやっているのですが、商品にならないスクラップや、鉄の端材がドラム缶に大量にあるのを、小さい時からみていたんですよね。螺旋上のものやコの字のものまで、カタチが面白いものがあって、それを使って遊んだりしてました。小さい頃から端材が身近にあったことがおそらく大きいと思います。素材としての面白さが目に焼き付いていました。
刑部|
弊社は紙屋なので、最初から「まずは紙を使おう」と考えていました。端材に関してはすんなり入ってきましたが、他にどんな端材があるか、全く想像がつかなかったです。紙をどう使っていこうかという話からどんどん派生していって、最初に山田さんが持ってきてくれたのが鉛筆の端材でした。これを見たときはかなりびっくりしましたね。
鉛筆の端材 カタチもきれいで色もさまざま
山田|
葛飾区の鉛筆工場の社長さんから、普段は工場見学の小学生に渡している端材がコロナで渡せなくなってしまったと聞き、ゴミ袋10袋くらいあったものを全部もらってきました。めちゃくちゃ面白いですよね。きれいだし。
刑部|
端材をご提供いただいてる企業さんだけでも10社以上あります。紙に関しても、廃盤になったものや倉庫に眠っているものまで。こんなにきれいな紙も、廃盤になってなくなっていくことを考えると切ないなって思っていました。
端材を提供くださる企業さんの反応はどうですか?
刑部|
これはゴミだからと言う方もいらっしゃいますし、捨てる以外に方法がなくて困っているという方もいらっしゃいます。私たちももったいないと思っているんですが、そういった廃棄予定の端材を活用できるというのは、企業さんにとっても、たぶん嬉しいことなんだろうなって思います。「子どもたちがこんな作品作ってくれました」ってたまにメール送ったりするんですけど、すごく喜んでくれます。
紙が持つ魅力と可能性
紙のどんなところに惹かれますか?
刑部|
紙には、機能的な価値と表現的な価値があると思っています。機能的な価値っていうのは、チラシや本だったり、デジタルに置き換わる可能性のあるもの。紙だったら嵩張るし、重たいし、そういった面で見ればデジタルの方がいいのかもしれないっていう部分は、どうしようもないけど、あると思っています。
一方で、手触りや見た目の暖かさを感じながら、この紙を使って何を作ろうかな、どういう風に使おうかな、みたいなことは、その人自身が考える余白になり得る紙の表現的な価値だと思っています。
僕らの問屋業って、なにかをピンポイントで作っているわけではないですし、流通として関わっているので、ものづくりに対して許容できる範囲が広いんです。紙の遊園地プロジェクトやチョキペタスもそうですが、端材を使って、誰も考えていなかった創造性を引き出せるような場所を作っていきたいです。
プラスチックとの比較でなにか思うことはありますか?
山田|
素材としてはどちらも優秀な面があるので、両方とも使ってきてはいるんですよね。でも紙っていうのは、生まれた時からあたりまえにあるものであると同時に、自分の中でリスペクトがある素材だと感じてます。小さい頃から、たぶん一番手軽に渡される素材だと思うんですよね。それぐらい身近でありながら、たくさんの種類があって、玩具になるものから紙袋になるものまで、他の素材と同じか、それ以上に幅があるのも魅力ですね。
今後のチョキペタスの展望をお聞かせください。
刑部|
チョキペタスは世界を目指してます(笑) 世界中の端材を集めたいですね。
山田|
その国によって何かしら作っているので、端材もいろんな種類がありそうですよね。
紙という素材を使って今後やっていきたいことはありますか?
刑部|
紙で素敵なことをしてる人はたくさんいますが、紙の遊園地として、もっと新しい面白さを作っていきたいと思っています。紙と端材を組み合わせることによって何かが生まれたように、例えば紙と吹奏楽のコラボとか、紙と宇宙のコラボとか、紙と何かをコラボレーションさせる世界でやっていきたいなっていう想いは漠然とあります。
山田|
アトラクションを生み出し続けていけば、紙の遊園地はもっと成長するっていうのはもう見えています。チョキペタスという大きな核は生まれましたが、そこに甘んじずに、どんどん作っていくってことが大事なのかなって思ってます。
読者の方へのメッセージ
最後に読者の方へメッセージをいただけますでしょうか?
山田|
紙の遊園地として楽しい空間をどんどん作っていきたいです。いろんなところで写真をアップしているので、自分も何か参加してみたいっていう会社さんがいらっしゃれば、その会社が持っている魅力と、アトリエヤマダや中庄さんが持つ魅力を掛け合わせて楽しいアトラクションを作っていけると思います。
刑部|
環境問題に関して、当初はそこまで意識していませんでしたが、端材や紙がこれだけ集まると、この端材なんなんですか?って聞かれたり、廃盤になって使えなくなってしまう紙の存在を伝えたりすることができます。 そういうことをしていくうちに、環境問題を意識する入り口みたいなものが、チョキペタスをきっかけに生まれたらいいですね。
環境問題の文脈で取り上げられたときに、紙素材が見直されることは結構あると思います。そんなきっかけを遊びながら一緒に考えられる場所になっていたとしたら嬉しいですね。でもまずは気軽に遊びに来ていただきたいですね。
山田|
遊園地ですしね!
出張チョキぺタスのご要望、端材や廃材をお持ちの方は下記までお気軽にご連絡下さい。
【担当】刑部(ぎょうぶ): gyobu@nakasho.com
編集後記
子どもの頃に体験したことは、大人になっても原風景としてずっと残ると思います。山田さんが実家の鉄工所で子どもの頃から端材に触れていたことが、チョキペタスへと繋がったように、子どもたちが大人になった時、チョキペタスで体験したことが創造性を膨らまし、どこかで環境問題について考えるきっかけになったらいいなと思いました。