「サステナブル建築って、具体的にどんなもの?」
「サステナブル建築で、快適な暮らしは可能なの?」
サステナブル(sustainable)とは「持続可能な」という意味の英語で、サステナブルファッション・サステナブル経営などの形でよく使われます。SDGs(Sustainable development goals: 持続可能な開発目標)が世の中に浸透するのに合わせて、「サステナブル」という言葉を見聞きすることが増えてきました。
地球の資源は限られており、大量生産・大量消費を続けるような社会を続けることは不可能です。また、CO2の増加による地球温暖化の悪影響が懸念されるなか、いかに地球環境をサステナブルにしていくかは人類共通の課題といえます。
この記事では、サステナブルに関する話題の中でも、特に建築の分野に焦点をあて次のことについて解説していきます。
・サステナブル建築とは何か
・建築と環境問題との関係
・サステナブル建築を後押しする制度
・環境に配慮した建築物の具体例
最後までお読みいただければ、サステナブル建築について具体的なイメージをもっていただけるはずです。
サステナブル建築とは
サステナブル建築とは、設計・建設・運用・廃棄までを通して、地球環境への負荷を可能な限り減らそうとする建築物のことです。
建築物は個人的な財産であると同時に、地域の自然環境や文化と結びついて街を形作る社会的な財産でもあります。また、資源・エネルギーの利用や二酸化炭素排出の面から見ると、建築は地球環境ともつながっているのです。
つまり、建築の分野においてサステナブルを目指すことは、個人の生活を豊かにするだけでなく、地域の持続的な発展や地球環境問題の解決に貢献することにつながります。
建築物が地球環境に与える悪影響
建築は、材料の調達から施工・利用・維持管理・取り壊しまで、それぞれの段階で環境に負荷を与えています。
近代の建築は、エネルギーを使って遠方から資源を運び、重機や機材を動かして建築し、維持管理にも電気やガスなどを使用するのが普通です。また、建築物が不要となった時には大量の廃棄物が発生し、重機などによる解体と運搬が必要で、一部は焼却処分しなければなりません。このように、建築物を作るには資源やエネルギーを消費し、CO₂を排出することが避けられないのです。
サステナブル建築を実現するには、設計段階から廃棄までの各段階において、地球環境に与える影響を把握し、負荷を減らす対策が求められます。
それでは、建築物が地球環境に与える負荷について具体的に見ていきましょう。
森林破壊
日本は建築材料である材木を海外に依存しており、熱帯雨林や北方の針葉樹林では、森林破壊・環境の劣化・希少種の減少などの問題が起きています。 適切に管理された人工林で生産される材木は、伐採跡地に植林すれば数十年後にまた利用できるようになるため、本来ならばサステナブルな資源です。
しかし、日本では人工林から材木を切り出すコストが高いため、国産の木材が高価になっています。その結果、安い外国産材に頼ることが多くなり、国内では放置された人工林が増えている現状です。
木はCO2を固定して成長するため、地球温暖化を防止するためにとても重要ですが、管理が行き届かない人工林は密集して細くなり、高齢化も進むため、CO₂吸収能力が落ちてしまうため、適切に育て、収穫して、また植林するサイクルで回すことが大切です。
コスト最優先の建築を続ければ、海外の森林破壊に拍車をかけ、国内の人工林の価値を減少させてしまうおそれがあるのです。
サステナブル建築では、持続可能な森林経営であることを示すFSC認証を受けた材木を使ったり、国産材を積極的に利用したりするなどの対応が考えられます。
エネルギーの消費
建築物は材料調達から解体まで、多大なエネルギーを必要とします。エネルギーは化石資源を使って作り出され、利用すると二酸化炭素が排出されるのが普通です。
鋼鉄やセメントなど建設材料の生産や運搬でもエネルギーが必要であり、建物の建設・取り壊しには重機や機械の使用により燃料が消費されます。さらに建物が完成した後、空調・換気・照明・給湯などで、建物内を快適に維持管理していくにもエネルギーは不可欠です。エネルギー消費に無頓着であれば、資源がいくらあっても足りず、CO₂の削減も進みません。
サステナブルなエネルギー消費を実現するには、燃費効率の良い機器を使用して消費エネルギーを抑えたり、エネルギー消費が少なくなる設計にしたりするのが有効です。
CO₂排出
現在、地球温暖化による気候変動が国際社会でも大きな問題となっており、主な温室効果ガスであるCO₂の削減が世界共通の課題です。
日本政府は、2050年までに温室効果ガス排出量と森林などによる吸収量のバランスをとって、カーボンニュートラル(差し引きゼロ)を目指すことを表明しています。
日本のCO₂排出量の3分の1は、住宅・建築物にかかるものです。建築物の材料の生産と運搬、建設・解体や利用開始後のエネルギー消費にともない、多くのCO₂ が生み出されます。また、取り壊した後の廃材を焼却処分すれば、CO₂排出は避けられません。
さらに、建物の運用段階で発生するCO₂が、建築物に関わるCO₂排出の中で最も大きい割合を占めるといわれています。建築に関わるCO₂の発生を削減するには、化石燃料に頼らない再エネ電力の導入やエネルギー効率を向上させる工夫が必要です。また、生産時のCO₂発生が少ないエコマテリアルの利用も考えられます。
廃棄物
新しい建築物を作る時、既存の建物の取り壊しが必要ですが、廃材の分別が難しくリサイクルできない場合は大量の廃棄物となってしまいます。
廃棄物の処理には、重機の使用・運搬のためのエネルギーが必要です。また、焼却処分すればCO₂が発生し、埋め立て処分する場合も最終処分場が無限に受け入れてくれるわけではありません。
短いサイクルで建築と解体を繰り返せば、廃棄物の発生量は増えてしまいます。できる限り長く使える建物を作る方がサステナブルであり、長期的視点をもって設計することが重要です。
環境に配慮した建設方法
環境に配慮したサステナブルな建築を実現するため、新しい技術や資材の開発が進行中です。
近年では太陽光パネルが広く普及し、エネルギー収支を実質ゼロにする技術やコマテリアルなどを一般住宅にも導入できるようになりました。
ここでは環境に配慮した建築の方法についてご紹介していきます。
太陽光発電
太陽光発電は再生可能エネルギーの一つであり、発電の過程で化石資源を使用しないため、従来の火力発電などに比べCO₂排出量の削減が可能です。
太陽光発電設備の導入にはコストがかかりますが、次のようなメリットがあります。
- 毎月の電気代を削減できる
- 停電時にも電気が使えるため、防災力が高まる
- 発電でCO₂をほとんど排出しないため、脱炭素社会に貢献できる
東京都ではCO₂削減を後押しするため、2025年度から新築住宅に太陽光発電設備の設置と断熱・省エネ性能の確保などが義務付けられることになりました。同時に東京都は、環境性能の高い住宅の新築や既存住宅の断熱改修を行い、あわせて設置する太陽光パネル等に対して補助を行うとしています。
都民向けの補助金額は1kwあたり10〜15万円で、補助制度を利用した場合、電気代節約や売電により約6年で設置費用が回収できるとしており、魅力的です。事業者・ハウスメーカー・工務店向けにもそれぞれ補助のメニューがあります。
今後、太陽光発電はさらに広まっていくでしょう。
ZEH(ネット・ゼロ・エネルギー・ハウス)
ZEHとは、Net Zero Energy House(ネット・ゼロ・エネルギー・ハウス)の略称で「ゼッチ」と呼ばれています。快適な住環境を維持しながら、消費する年間のエネルギー収支をゼロにすることを目指した住宅のことです。
住宅では、人が生活するためのエネルギー消費をゼロにはできません。
しかし、省エネによってエネルギー消費量を減らし、創エネによって必要なエネルギーをつくることで、エネルギー消費量を正味(ネット)ゼロにすることができます。
ZEHのメリットは次のようなことです。
- 毎月の光熱費を削減できる
- 停電時にもエネルギーが使えるため、防災力が高まる
- 居住空間が快適になり、生産性が向上する
- 不動産価値が向上する
東京都において、家庭部門のエネルギー消費量が占める割合は約3割にのぼります。家庭でのエネルギー消費を削減するためには、省エネルギー対策や省エネ性能の高い住宅の普及が必要です。そのため、東京都では新築した建築主に対しその費用の一部を助成する「東京ゼロエミ住宅」事業が2018年度から始まりました。
エネルギー消費量を完全にゼロにすることが難しい場合でも、可能なところから実現を目指すことが重要です。
エコマテリアル
エコマテリアルとは、「地球環境に調和し持続可能な人間社会を達成するための物質・材料」と定義されています。
エコマテリアルに含まれるのは、次のようなものです。
- リサイクルできる材料
- 有害物質が含まれない材料
- 少ないエネルギーやクリーンな条件で製造できる材料
- 汚れた水や空気をきれいにする材料
- 少量で高い性能を発揮できる高効率・省資源な材料
- 再生可能エネルギーを実現するために必要な材料
建築材料の例としては、廃棄物を利用して作られた再生骨材・路盤材・透水性ブロックなどや建物の温度上昇を緩和する高反射率塗料などがあげられます。将来的に、あらゆる産業でエコマテリアルへの代替が求められていくと予想され、今後さらに新しい材料が生み出されていくことでしょう。
日本の主な建築材料である木材は、エコマテリアルの一つといえます。適切な管理のもとで木を育てれば、無理なく利用し続けることができるからです。
また、建築材料を作るためにはエネルギーが使われCO₂が放出されますが、材料1㎥あたりを製造する時に排出されるCO₂の量を比較すると次のようになっています。
- 木材(天然乾燥)…約15kg
- 鋼材…約5,300kg
- アルミニウム…約22,000kg
CO₂排出の面から考えても、木材は桁違いに環境への負荷が少ない材料なのです。
さらに木材は、次のような人に優しい性質をもっています。
- 熱を伝えにくいため、夏は冷たく冬は温かく感じられる
- 衝撃を吸収する
- 空気中の湿度を調整し、カビを防ぐ
- 香りや色・模様によってリラックスさせてくれる
日本の風土に合った材料である木材の価値を見直して、サステナブル建築に活用していくべきでしょう。
ライフサイクルマネジメント
ライフサイクルマネジメントとは、施設の企画段階から設計・建設・運営・解体までの施設の生涯(ライフサイクル)に着目して計画・管理する考え方のことです。企画段階で建築物のライフサイクルを見通し、資源・エネルギー消費などの環境負荷を最小限におさえ、利用価値を最大化することが求められます。
例えば、ある施設が一つの役割を終えた時に取り壊すのではなく、新たなニーズに合わせて改修して利用し続ければ、解体にかかるコストやCO₂排出を削減することが可能です。従来のように大量生産・大量消費を前提とした建築ではなく、可能な限り長く使い続けるための設計をし、材料を選び、維持管理していく方がサステナブルといえます。
サステナブル建築を実現するためには、ライフサイクルマネジメントの考え方が欠かせません。
環境に配慮した建築事例
意識してみると、身近な公共施設や商業施設に環境への配慮が取り入れられていることに気づくかもしれません。
ここでは、環境に配慮したサステナブル建築の例をご紹介します。
武蔵野クリーンセンター(東京都武蔵野市)
武蔵野クリーンセンターは、「まちに溶け込む次世代型市民施設」というテーマで作られたごみ処理施設です。まるで美術館のようなおしゃれな外観で、2017年にはグッドデザイン賞を受賞した、今注目のごみ処理場です。この施設はごみ処理だけにとどまらず、エネルギー供給施設として機能できる設備も備え付けています。
地域と連携してエネルギーを融通する「エネルギー地産地消プロジェクト」によって、地域全体でCO₂排出量が約2,300トンも削減されました。
また、武蔵野クリーンセンターのサステナブル建築としてのポイントは次の通りです。
- 太陽光発電・小水力発電の利用
- 光電式自動水栓…トイレの蛇口から出る水の勢いで発電し光電センサーの電源に利用
- 雨水の再利用…屋根の上に降った雨水をトイレの洗浄水や屋上菜園の水やりに利用
- 既存樹木の活用…伐採しなければならなかったイチョウを製材しベンチとして活用
- リサイクルガラスをペンダント照明として利用
- 多摩産の間伐材を利用
エコルとごし(東京都品川区)
エコルとごしは、自然豊かな戸越公園の中にオープンした品川区立の環境学習交流施設です。
建物の竣工時点で、年間エネルギー消費量を91%削減する見込みとして、都内の公共施設として初めて「Nearly ZEB」の認証を取得しました。
「Nearly ZEB」は、ZEH(ゼッチ:Net Zero Energy House)やZEB(ゼブ:Net Zero Energy Building)を普及するために、達成状況に応じて設定された4段階のうち上から2つ目のランクです。
エコルとごしは、「ZEBリーディング・オーナー」として、中長期のZEB導入計画と目標について情報発信することになっています。
エコルとごしのサステナブル建築としてのポイントは次の通りです。
- 太陽光発電の利用
- 壁面緑化…蒸散作用で壁面の温度上昇を緩和し、二酸化炭素を吸収
- 熱を通しにくいガラス・深い軒…夏季に室内の温度上昇を緩和
- 地中熱利用…年間を通して温度が一定である地下の空気を空調に利用
- 空気を入れ替える窓…春秋のちょうどよい外気を利用
- 居住域空調…室温調節を床上2m程度に限ることで無駄をカット
- 照明の省エネ…明るさによって自動調節し、人がいない時に消灯
- 雨水の再利用…屋根の上に降った雨水をトイレの洗浄水などに利用
まとめ
ここまで次のことについて説明してきました。
- サステナブル建築とは何か
- 建築と環境問題との関係
- サステナブル建築を後押しする制度
- 環境に配慮した建設の具体例
サステナブル建築は、資源やエネルギーの大量消費の上に成り立ってきた過去の建築方法を見直し、建築物のライフサイクルを見通して地球環境や地域社会に配慮しようとするものです。
サステナブル建築を思い描くだけでなく、実際に形にするためには建築に関わる全ての人の努力と協力が必要でしょう。
今後サステナブル建築が当たり前となり、安心で快適な暮らしと持続可能な社会が両立されることを願ってやみません。
最後までお読みくださり、ありがとうございました。
(参考1)東京都「太陽光発電設置義務化に関する新たな制度が始まります」
(参考2)東京都環境局「東京ゼロエミ住宅」とは?」
(参考3)東京都環境局「助成制度」
(参考4)建設コスト研究 NO115 2021年1月「建設会社におえるカーボンニュートラルに向けた取組み」
(参考5)武蔵野クリーンセンター「エコな取り組み」
(参考6)環境省「ZEB PORTAL」
(参考7)エコルとごし ジュニアガイド「ZEBってなんだろう?」
(参考8)”つながるひろがる”環境情報メディア 環境展望台「環境技術解説」
(参考9)京都府ホームページ中丹広域振興局森作り振興課「木をつかうこと」