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ワックスワームとは?プラスチック分解能力を持つ幼虫について解説

ワックスワームとは?プラスチック分解能力を持つ幼虫について解説

「ワックスワーム」という幼虫をご存知でしょうか?ワックスワームは一見すると普通の昆虫ですが、実はプラスチックを分解できるという特殊な能力を持つ幼虫です。ワックスワームが持つプラスチック分解能力は、深刻化するプラスチックごみ問題の新たな解決策として近年注目を集めています。

 

この記事では、ワックスワームの生態や特徴、プラスチック分解のメカニズム、さらには実用化に向けた課題まで詳しく解説します。プラスチックごみ問題に関心のある方や、環境に優しい技術に興味がある方は、ぜひ最後までお読みください。

ワックスワームの生態と特徴

ワックスワームとは、ハチノスツヅリガ(学名:Galleria mellonella)の幼虫のことです。体長は10~16ミリメートルほどで、乳白色から薄い茶色の柔らかい体をしています。ミツバチの巣に寄生し、主に巣内の蜜ろうをえさとして生活しており、養蜂業者にとっては深刻な害虫として知られています。これは、ワックスワームの食害によって蜂の群れが消滅したり、巣箱から逃げていなくなったりする場合があるためです。

 

【閲覧注意|虫の画像が表示されます】画像タップで詳細を表示

 

一方で、人工飼育が比較的容易なため、ペットのえさや釣り餌、研究用の実験動物としても利用されています。さらに上記に加えて近年、ワックスワームがプラスチック分解能力を持つことも明らかになりました。この能力から研究者たちは、ワックスワームを「プラスチックを食べる生物種」という意味の造語「plastivore(プラスティヴォーレ)」と呼んでいます。

ワックスワームのプラスチック分解能力

 

近年の研究結果により、ワックスワームがプラスチック分解能力を持つことが明らかになりました。この能力は、環境問題の新たな解決策として注目されています。

ここでは、ワックスワームがプラスチックを分解するメカニズムや、公表された実験結果を見ていきましょう。

プラスチック分解のメカニズム

ワックスワームのプラスチック分解能力の正体は、その体内に住む特殊な腸内細菌にあります。この腸内細菌は、プラスチックの一種であるポリエチレンを唯一の栄養源として1年以上も生き続けることが確認されています。さらに、研究者たちは以下の研究結果から、ワックスワームと腸内細菌の間にプラスチックの分解を促進する相乗効果が働いていると推測しています。

 

  • 抗生物質でワックスワームの腸内細菌を減らすと、プラスチック分解の効率が低下した
  • ポリエチレンのみをえさとして与えると、ワックスワームの腸内細菌が増加した

 

これらの研究結果は、ワックスワームと腸内細菌が影響し合ってプラスチックを分解するという何らかのメカニズムの存在を示しています。

分解可能なプラスチックの種類

ワックスワームが分解できるプラスチックは、主にポリエチレン(PE)です。ポリエチレンは私たちの生活に最も身近なプラスチックのひとつで、レジ袋やラップ、洗剤のボトルなど、さまざまな製品に使用されています。

 

ポリエチレンを分解する能力は、ワックスワームが本来えさとしている蜜ろうを分解する仕組みと類似していると考えられています。

 

[海外で実施された実験結果]40分でレジ袋に穴が開く

複数の研究機関で、ワックスワームのプラスチック分解能力を実証する実験がおこなわれています。イギリスのケンブリッジ大学では、約100匹のワックスワームにレジ袋を与える実験をおこなったところ、40分以内に複数の穴をあけたことが確認されました。さらに12時間後にはレジ袋の重さが92ミリグラム減少しました。これは一般的なレジ袋1枚の6分の1の重さに相当する量です。また、カナダのブランドン大学による実験では、60匹のワックスワームが30平方センチメートルのレジ袋を1週間以内に完全に分解することも確認されました。

 

 

これらの実験結果からも、ワックスワームは高いプラスチック分解能力を持っていることが分かります。通常、プラスチックは自然界ではほとんど分解されず、半永久的に残り続けることを考えると、この分解速度は極めて効率的といえるでしょう。

プラスチックごみが環境に与える影響

ワックスワームのプラスチック分解能力が注目されている背景には、プラスチックごみが環境に深刻な影響を及ぼしている現状があります。堆積したプラスチックごみは、以下のような環境問題を引き起こします。

 

  • 景観が損なわれて観光客が減少する
  • 漁業の妨げとなる
  • 動物の体に巻きついて傷つける
  • 野生動物がえさと間違えて食べる
  • 微細なプラスチックが生き物の体内に蓄積される

 

特に深刻なのが、マイクロプラスチックナノプラスチックの問題です。プラスチックごみは時間の経過とともに細かく砕けていき、5ミリメートル以下のマイクロプラスチック、さらに100ナノメートル以下のナノプラスチックとなります。これらの微細なプラスチックは、食物連鎖を通じて生態系全体に広がっていきます。プラスチックは有害な物質を吸着しやすい性質を持つため、私たち人間を含むあらゆる生物の健康に悪影響を及ぼしかねません。環境や生態系への影響を軽減するためには、プラスチックごみの適切な処理を徹底する必要があります。

 

 

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ワックスワームを用いたプラスチック処理が環境問題に与える効果

マイクロプラスチック問題

 

ワックスワームはプラスチックを分解する能力を持っており、環境中に放出されるマイクロ・ナノプラスチックの量を減らす効果が期待できます。マイクロ・ナノプラスチックが削減されると水生生物や土壌生物への影響が軽減され、生態系のバランス維持や生物多様性の保護につながります。また、ワックスワームを活用したプラスチック処理は、ごみの焼却による温室効果ガスの排出や埋め立てによる土壌汚染など、二次的な環境問題の発生が見込まれる従来の処理方法と比べて環境への負荷を減らせるのこともメリットです。

 

このように、ワックスワームを活用したプラスチック処理は環境保護の観点からも有効な方法といえます。技術が実用化されれば、世界的なプラスチックごみ問題解決への貢献が期待できるでしょう。

ワックスワームを用いたプラスチック処理の課題

 

注目を集めるワックスワームのプラスチック分解能力ですが、実用化に向けてはいくつかの課題があります。ここでは、ワックスワームを用いたプラスチック処理が環境へ与える負荷と、サーキュラーエコノミー(循環経済)との親和性について詳しく説明します。

環境へ与える負荷

プラスチック分解処理の実用化に向けた課題となっているのが、環境負荷の問題です。プラスチックの分解処理を大規模におこなうためには、多くのワックスワームが必要となります。しかし、大量のワックスワームがポリエチレンを分解する過程で、相当量の二酸化炭素を生成することが懸念されています。多量の二酸化炭素の排出は、新たな環境問題を引き起こす原因になりかねません。

 

この課題を解決するため、ワックスワームからポリエチレンを分解する酵素のみを抽出し、人工的に生成して処理に活用する研究が進められています。

サーキュラーエコノミー(循環経済)との親和性

次に課題となるのが、「サーキュラーエコノミー(循環経済)」との親和性です。サーキュラーエコノミーとは、資源を持続可能な形で最大限活用する経済モデルです。資源の効率的な利用と循環を図り、可能な限り廃棄物の発生を抑えることを目的としています。世界的にサーキュラーエコノミーへ移行する傾向が強まっていることもあり、ワックスワームを用いたプラスチック処理には疑問の声も上がっています。ポリエチレンは適切に回収・処理すれば、再利用やアップサイクル(より価値の高い製品への再生)が可能な素材です。しかし、ワックスワームによって完全に分解してしまうと、再利用の可能性が失われてしまいます。

 

資源の有効活用という点においてプラスチックの分解が本当に望ましいのかどうか、十分に検討する必要があるといえるでしょう。

ワックスワーム以外のプラスチック分解生物

 

ワックスワーム以外にも、プラスチックを分解する生物が発見されています。ここでは、ポリスチレンを分解する「ミールワーム」と海洋微生物の「アルカニボラックス」を紹介します。

ポリスチレンを分解する「ミールワーム」

ミールワームは、ゴミムシダマシという昆虫の幼虫です。プラスチック分解能力を持つという点でワックスワームと共通点があるものの、ミールワームはポリエチレンではなく、発泡スチロールの主成分であるポリスチレンを分解します。

 

研究によると、ミールワームの腸内細菌がポリスチレンを栄養源として利用し、二酸化炭素と、排泄物のような生分解性の物質に変えることができます。従来、ポリスチレンは生分解性ではないと考えられていたことから、大きな発見として注目されました。ワックスワームと同様、プラスチックごみ問題の解決への一助となることが期待されています。

海洋微生物の「アルカニボラックス」

「アルカニボラックス(Alcanivorax)」は、高知大学農林海洋科学部の研究チームによって発見された海洋に生息する微生物です。この微生物は、プラスチックの一種であるポリプロピレンを分解する能力を持っています。アルカニボラックスは海水中で生息できるため、海洋プラスチック問題への対策として期待されています。ただし、すべての海洋プラスチックをアルカニボラックスだけで処理することは現実的ではありません。むしろ、陸上でのプラスチック処理を適切におこなって海洋への流出を防ぎ、海に意図せず流出してしまうプラスチック量を、プラスチック分解菌が対応できる程度に抑えることが重要です。このバランスが取れると、海洋プラスチックごみ問題が解決に近づく可能性があります。

 

今後の研究によりアルカニボラックスの能力をさらに解明し、実用化に向けた取り組みが進むことが期待されています。

まとめ

この記事では、プラスチックを分解する能力を持つワックスワームの生態やその分解能力、ワックスワームを用いたプラスチック処理の可能性などについて解説しました。ワックスワームのプラスチック分解能力は、環境問題の解決に向けた新たな可能性を示しています。

 

一方で、実用化に向けては二酸化炭素の排出問題やサーキュラーエコノミーとの親和性など、解決すべき課題も残されています。プラスチックごみ問題は、持続可能な社会の実現に向けて解決すべき重大な課題です。ワックスワームをはじめとするプラスチック処理の研究が進展することを期待しつつ、私たち一人ひとりも、使用量削減やリサイクルなどの取り組みを継続していきましょう。

 


【参考】

捕食性天敵|一般社団法人日本養蜂協会

ニホンミツバチ養蜂におけるスムシの生態と防除|一般社団法人養蜂産業振興会『養蜂産業振興会報 No.10』

ワックスワーム|株式会社ミタデン

プラスチックを生分解する幼虫と腸内細菌との謎多き関係――環境汚染対策の鍵となるか|fabcross for エンジニア

Polyethylene bio-degradation by caterpillars of the wax moth Galleria mellonella|Current Biology

Plastivores: Remarkable waxworms devour plastic waste in BU study|Brandon University

レジ袋を食べる虫がいた...プラスチックを分解して穴を開けるぞ (動画あり)|HUFFPOST

成長志向の資源循環経済システム「サーキュラーエコノミー」(前編)どんな課題を解決するの?|資源エネルギー庁

Stanford researchers show that mealworms can safely consume toxic additive-containing plastic|Stanford Report

世界初! プラスチックを分解する微生物から石油を生み出す微生物まで|高知大学農林海洋科学部

マイクロプラスチックより小さい“ナノプラスチック”とは|国立環境研究所

Profile

小澤たまき(おざわたまき)

公務員として7年勤務したあと約5年のアメリカ生活を経験。2023年よりWebライターの活動を開始。学生時代に学んだ環境問題のほか、趣味である旅行や輸入物販に関する記事など幅広く執筆している。2児の母。

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