ファッションが環境問題を引き起こす?大量の服が消費されるファストファッションは、環境や労働の問題に深く関係していた!
今着ている服が環境へもたらすかもしれない影響や、業界のサステナブルな取り組み、私たちにできることについてご紹介。服が好きな人や、SDGsの目標達成に向けて社会をよりよくしたいと思う人は必見です。
目次
ファッション業界と環境問題
価格やデザインが豊富で、自分に合う楽しみ方ができる衣服。毎日の生活必需品としてはもちろん、趣味として楽しむ人も多いファッションですが、近年はファッションが環境や労働者に与える悪影響が問題視されることが増えています。国連貿易開発会議(UNCTAD)のレポートでも、繊維・アパレル産業は石油産業に次ぐ「環境汚染産業」として挙げられました。
しかし、今私たちが着ている服がどこで・どのように環境を汚染しているのかを特定することは、簡単ではありません。ファッション業界の特徴は、原材料を調達し、紡績や染色で生地を作り、それを裁断・縫製して衣服にする、という生産段階の多さにあります。そして、日本で販売されている衣料品のほとんど(約98%)が、海外からの輸入品。海外で製造された衣類は多くの輸送エネルギーを消費して日本に到着し、消費されます。
さらに、衣料品は数種類の生地を裏と表で組み合わせたり、プラスチックのボタンやスパンコールで装飾されていたり、金属のファスナーをつけたり…と、様々な素材が使われています。それら全てパーツのサプライチェーンまで追うとなると、さらにファッションの環境負荷の状況把握は困難になります。
複雑な衣料品の生産段階をファッション産業全体で見ると、環境負荷の総量を把握することができます。例えば、原材料を見てみると、多くの衣類で使用されているポリエステルなどの合成繊維は石油資源を使っています。コットンなどの天然繊維は環境に優しいイメージが持たれることもありますが、実は栽培時に大量の水や化学肥料を使用するため、環境負荷がかかってしまいます。
また、原材料から生地を作り、衣服の形に縫製し、輸送するまでには、約9万キロトンのCO2が排出されています。植樹した1本の苗木(カラマツ)が40年ほどで収穫期を迎えるまでに吸収するCO2の量が250kgと言われています。仮に、衣料品の製造で排出されたCO2を、カラマツの植樹でオフセット(相殺)しようとすると、1年間に3億6000万本の苗木を植えて40年後にやっと0にできるという計算になります。
\企業の植樹活動/
また、服1着を作るために浴槽約11杯分の水が使われており、世界的な人口の増加に伴う水不足が深刻な今、ファッション産業の水の消費量が問題視されています。一方、衣料品の生産段階で水が使用されるのは、主に原料植物の栽培と染色の段階なので、原料をポリエステルなどの合成繊維に変えれば良い、という考えにも問題点があります。化学繊維でできた服を洗濯すると、マイクロファイバーと呼ばれる大量のマイクロプラスチックが発生することが明らかになっているからです。マイクロファイバーは海洋のマイクロプラスチックの中でも多くの割合を占めているのではないか、と推測されています。
ファストファッションの流行と転換
早く・安く提供される食べ物を「ファストフード」と呼ぶことに由来して、短いサイクルで大量に製造し、安く売られる衣類が「ファストファッション」として2000年代以降に流行するようになりました。すぐに変わるトレンドに遅れることなく、新しいファッションを手頃な価格で購入できるため、ファストファッションのブランドは多くの人に支持されました。中には、1日になんと6,000近くの新しいデザインの衣服をリリースする「ウルトラファストファッション」を提供するブランドも。
日本で供給されている衣料品は増加傾向にある一方で、衣服一枚あたりの価格は下がっていることからも、大量に作られた衣服が安く売られる傾向が分かります。価格だけでなく、大都市圏以外の地方でも手に入りやすいこともファストファッション人気の後押しに。手軽にデザイン性の高い服が手に入るようになったことによって、他の産業と同様に衣類にも「使い捨て」の大量消費が定着してしまうことが懸念されます。お店でたまたま見つけて「好みだから、安いしとりあえず買おう」と購入した服が家で眠っている、という経験がある人も多いのではないでしょうか。
しかし、2009年には新語・流行語大賞トップテンにも選ばれた「ファストファッション」ですが、サステナビリティの意識の高まりを受けて、労働や環境問題が指摘されるようになりました。SNSで見かけるおしゃれで激安の服は魅力的ですが、「品質はどうなのか」「なぜ安いのか」「どんな人が、どんな環境で作った衣服なのか」安さの背景を想像する力が求められています。
ファストファッションの労働環境問題
労働環境
ファストファッションが問題視されるきっかけとなった出来事の一つに、縫製工場「ラナプラザ」崩落事故があります。バングラディシュの首都ダッカ近郊で2013年4月24日に発生したこの事故で、少なくとも1,132人の死者、2,500人以上の負傷者が確認されています。ラナプラザは、縫製工場などが入居する8階建の商業ビルでしたが、違法な増築や、亀裂の発見による使用中止警告をオーナーが無視したことなど、労働者の安全が守られているとは言えない労働環境でした。日本はバングラデシュにとって第3位の輸出相手国にまで成長しているため、他人事とは言えません。
低賃金
もの低価格で販売したり利益を上げたりするためには、コストを下げる必要があります。ファストファッションを供給するメーカーは、新興国に作った縫製工場で現地の労働者を低賃金で雇用することで、製造コストを抑えています。もちろん、現地の物価を考慮して、妥当な賃金が支払われていれば問題ありません。しかし、実際には最低賃金に達していなかったり、残業代がでなかったり、コロナ禍で生産がストップしたことで給与が未払いになったり、と労働に見合う報酬が支払われていないケースがあると言われています。
長時間労働
ファストファッションの特徴は、短いサイクルで大量の衣類が提供されること。店頭に次々と新しい衣服が並ぶということは、それだけ膨大な量の服を作っている労働者がいるということです。新興国の縫製工場の平均労働時間は10時間を超えており、時期によっては1日18時間近く働かなければならないという統計も。バングラディシュなどのアジアの新興国で、空調設備がなく室温が40度近くになるような工場で長時間労働するとなると、労働者の健康や命の危険に繋がることが心配されます。
ファッションが環境に与える影響
水消費・水質汚染
ファッション産業の上流から見ていくと、綿花栽培の段階から土壌汚染や水質汚染の原因が見られます。ある調査によると、綿花栽培が世界中の耕作地面積を占める割合は、数パーセント程度であるにも関わらず、世界で使用される農薬の10分の1、殺虫剤の4分の1が、綿花栽培で使われています。この問題に対して、第三者認定を取得した「オーガニックコットン」などの使用に取り組むアパレルメーカーも増えてきています。
洗濯や染色、仕上げの段階における水質汚染も、工業用水による水質汚染の2割程度を占めると推定されるほど深刻です。例えば染色の過程では、大量の水を使用して染色前に汚れを落とし、染色後に薬品を洗い流す必要があります。これらの工程を担う工場は途上国に多く、汚染水の処理システムなどのインフラが整っていないこともあり、染料や漂白剤などの化学物質を含んだ工場排水が、環境にそのまま流出している恐れもあるのです。「最大80%の排水が適切に処理されずに環境に放出され、繊維加工の各段階から化学物質を放出する可能性がある」という報告も。染色されていない素材の色を活かしたり、藍染などの植物由来の染料を使用したりすることで、水質汚染を軽減することができます。
一方、合成繊維による水質汚染は、衣料品を使用する私たち消費者の行動も原因の1つになっています。先述の通り、化学繊維でできた服を洗濯すると、マイクロファイバーと呼ばれる大量のマイクロプラスチックが発生します。さらに着ているだけでも繊維くずは発生しているとも言われています。洗濯時のマイクロファイバーの流出を防止するには、0.05mm以下の目の細かい洗濯ネットを使用したり、洗濯機や乾燥機のフィルターに溜まった繊維くずをこまめに取り替える必要があります。紙でできた服など、生分解性繊維の技術開発も進んでおり、環境に優しい衣料品として注目されています。
CO2排出・大気汚染
ファッション業界で排出される温室効果ガスの排出量は、国際航空業界と海運業界を足したCO2排出量を上回ります。国内のファッション産業でも、原材料の調達から廃棄までに、日本の総排出量の0.8%を占める二酸化炭素が排出されています。また、温室効果ガス以外にも、合成繊維の製造やコットンの染色工程校庭で使用される化学薬品や有害物質が大気中に放出され、大気汚染の原因となることも懸念されています。
\地球温暖化をわかりやすく/
衣服ロス
まだ使えるのに廃棄されてしまう「衣服ロス(ファッションロス)」も問題となっています。衣類ロスの中には、売れ残った新品の衣類も含まれていて、来シーズンの再販売や卸・商社などへの返品対応がされずに廃棄処分される衣類は、総販売点数の0.3%になります。また、1年間で共有される81.9万トンの衣服の9割が1年間で手放されていますが、リサイクルや海外輸出を含むリユースへと循環するのは3分の1程度で、残りの3分の2は焼却処分し埋め立てられています。
せっかく多くの二酸化炭素を排出してまで作られた衣類を、また多くの二酸化炭素を排出して焼却処分するという悪循環。これには、短いサイクルで衣類が消費されるファストファッションのビジネスモデルだけでなく、ブランド価値を下げないために値下げをしないハイブランド商品の販売方法への指摘もあります。また、消費者も「手間や労力がかからない」という理由で衣服をリサイクルやリユースではなくごみとして廃棄する人が多く、製造・販売・消費の全ての段階で改善の余地があると考えられます。
また、個人でできる衣服ロスを減らす取り組みの1つである、衣服の寄付にも課題があります。いらなくなった衣服を捨てずに必要な人に届ける、という目的を果たせていない可能性があることが指摘されているのです。例えば、服の種類に関係なく寄付したことで、暑い地域に使うことのない冬物が送られてゴミになってしまうケースや、アフリカの地域では大量の服が輸入されたことによって、現地のファッション産業を圧迫してしまうという例が見られます。ファッション産業は国際社会のつながりで成り立っているため、一部を見て問題点が解決できたと判断することは非常に難しいのです。
サステナブルファッションとは
近年、ファッション産業の原料調達から製造・輸送・販売・利用・回収や廃棄のプロセスにおいて、環境負荷や労働問題に配慮した持続可能なサイクルを生み出す「サステナブルファッション」の取組みが注目されています。多くのファッションブランドが積極的にサステナブルファッションを取り入れていて、ファストファッションでも自らのビジネスの環境負荷を認め、対策を行っているブランドもあります。
企業の取り組み事例を紹介
- オーガニックコットンや再生コットン、リネン、ウールなどの環境に配慮された素材の使用(原料調達)
- 使い終わったペットボトルや果物の皮などを使った繊維素材の開発(原料調達)
- 製造国の最低賃金を50%上回る給与の支給(製造)
- 子どもの成長にあわせてサイズを伸縮調整可能な長く着用できる子ども服(製造)
- 必要な分だけを作れるように大量生産ではなく受注生産にする(製造)
- 衣服のリサイクル回収ボックス設置(回収)
- 補修サービスを強化する(利用)
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サステナブルファッションを実現するために私たちができること
日本では、年間18枚の服を新たに購入する一方で、25枚の服を一度も着ないで持っている、という現状が。自分の衣服の買い方や着方に無駄がないか、見直してみましょう!
長く着れる服を買う
確かに新しい服を次々に着ることは魅力的かもしれませんが、新しく服を買うときは、デザインや価格だけではなく「いつまで着れるか」という視点も大切にしましょう。みんなが今より1年長く服を着ると、日本全体でなんと4万t以上の廃棄量を削減することができます。長く着れる服を見分けるには「丈夫で長持ちする素材かどうか」「流行に左右されない定番のアイテムかどうか」「自分の好みに合っているかどうか」「自分に似合うかどうか」などのポイントをチェックしましょう。
古着を買う
新品を買う以外にも衣類を揃える方法はたくさんあります。例えば、フリマアプリを活用すれば手軽にネットショップ感覚で古着を手に入れることができます。もちろん、自分が着なくなった服を出品することもできるので、着ていない服があればちょっとしたお小遣いにもなります。
古着のショップには、誰でも利用しやすいチェーンのリサイクルショップから、おしゃれなブランド品を集めた上級者向けのお店まで、ファッションの楽しみ方によって利用するお店を選ぶことができます。セカンドハンドは人と服を被らせたくない人にもおすすめです。
シェアリングサービスを利用する
カーシェアやレンタルスペースと同様に、衣服もシェアリングサービスやレンタルサービスを利用することができます。
新しいサービスが次々と誕生していて、「月額定額制で洋服が借り放題のサブスクリプションサービス」や「毎月プロのスタイリストがセレクトした服が届くサービス」「高級なブランドバックがレンタルできるサービス」などがあります。
お直しやリペアで1着を大切にする
「少しほつれた」「小さな穴が空いた」という理由で服を廃棄していませんか?それほど大きな傷でなければ家庭で簡単に修繕することも可能です。体型の変化によってサイズが合わなくなった服も、お直し専門店にお願いすれば再び着ることができる状態にリフォームしてくれます。
また、単なるリペアやリフォームだけではなく、服の印象を変えるリメイクやアップサイクルという方法も。裁縫が得意な人は、自分で挑戦してみると長く愛着の持てる服に生まれ変わるかもしれません。
どのように作られた服なのか確認する
ファッション産業の構造は、さまざまな工場や国が関わるため複雑で、トレーサビリティの確保が難しいのが現状です。商品タグや表示ラベルを確認して、「どんな材料が使用されているのか」「第三者機関によって証明されたフェアトレードマークなどの認証マークがついているか」などを確認すると良いでしょう。
また、ブランドサイトやSNSで原料調達から販売までのストーリーを発信している企業を探してみると、新たな服との出会いがあるかもしれません。
まとめ:あなたはどこで、どんな服を買う?ファッションの楽しみ方を見直してみよう
同じ衣服にかける1万円でも、1シーズンだけ着る1着2,000円の服を5枚買う人もいれば、5年着る1万円の服を1枚だけ買う人もいます。ファッションの楽しみ方は人それぞれですが、時代はファストファッションからサステナブルファッションにシフトするべき、という流れになってきているのかもしれません。
まだまだSNSは安くておしゃれなファッションブランドの広告や投稿で溢れていますが、心からファッションを楽しむためにも、地球環境や労働者に負荷をかけないサステナブルファッションを選びたいですね。
(参考)
環境省「サステナブルファッション」「環境省令和2年度ファッションと環境に関する調査業務」
国土交通省「水資源問題の原因」
国際連合広報センター「国連、ファッションの流行を追うことの環境コストを「見える化」する活動を開始」
日本貿易振興機構「縫製工場「ラナプラザ」崩落事故から10年」「世界2位の衣料品輸出国を維持、今後は高付加価値製品の輸出拡大へ」
プラなし生活「衣服の洗濯から発生して下水をすり抜けるマイクロプラスチックの問題」
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