地球温暖化や海洋汚染は人間に被害がなければ問題ないのでしょうか?
今、人間の暮らしが原因の環境問題で、命が脅かされている動物たちがいます。生物多様性を守ることの大切さから、私たちにできることまでを解説します。
生物多様性とは?
地球上にさまざまな個性を持つ生物が存在し、それらの生物の命が繋がっていることを「生物多様性」と表しています。地球上に初めて生命が誕生したとされる40億年前から現在まで、なんと3,000万種もの生物が生まれたと言われています。
あらゆる環境に適応しながら進化してきた生物には、大腸菌や乳酸菌などの細菌から、稲や海藻類などの植物、鳥やヒトやライオンなどの動物まで、多様な「種」が存在しています。また、同じ種の中にも、「遺伝子」の違いによって形や柄や大きさの違う個体が生まれます。さらに、生物が暮らす「生態系」にも、森林から河川、サンゴ礁まで、さまざまな場所があります。
単に生物の種類が多いことではなく、このように生態系・種・遺伝子の3つのレベルの多様性が、直接的にも間接的にも複雑に関わり合っているということが、生物多様性のポイントです。
生物多様性と私たちの関係
もちろん私たち人間も生物多様性の一部として、あらゆる動植物と直接的・間接的に繋がっています。
例えば、私たちは意識せずとも常に呼吸していますが、体に取り入れる酸素は植物が光合成によって吐き出したものです。また、稲や魚や肉などは直接食べることによって私たちの身体を作っています。地域の森は雨水を蓄えて洪水を防いでくれているかもしれません。
生態系サービス
私たちの暮らしは、食料や水を供給し、安定した気候を保ってくれる生態系の恵みによって支えられています。私たちの暮らしを支える生態系の恵みは「生態系サービス」と呼ばれ、国連主導のミレニアム生態系評価(MA)では、4つに分類されました。
①供給サービス
食料・水・ものを作るための原材料・医薬品の開発などに利用される遺伝資源・薬や化粧品になる薬用資源・工芸品などの鑑賞資源など。生きるために必要なものや、暮らしを豊かにするものを供給しています。
②調整サービス
微粒塵・化学物質などの捕捉などの大気質調整・炭素固定などの気候調整・暴風や洪水による被害の緩和・水量の調整・水質の浄化・土壌浸食の抑制・有害物質などを抑制する生物的コントロールなど。自然災害から私たちの暮らしを守ったり、安定した環境を提供しています。
③文化的サービス
景観・レクリエーションや観光の場所・文化や芸術へのインスピレーションなど。私たちの人生を豊かにしてくれます。
④基盤サービス
土壌形成・水や栄養の循環など。①〜③のサービスが供給されるように支えています。
これらの生態系サービスは、生物多様性の豊かさに支えられており、生物多様性の危機は私たちの生活の危機であることが分かります。
このように生物多様性は人間の生活や健康にさまざまな恩恵をもたらしてくれています。しかしその一方で、人間の暮らしが原因で生物多様性が失われていることが問題視されています。人間がもたらす生物多様性の危機の中には、「化学物質やプラスチックごみなどの持ち込みによる生態系のかく乱」や「温暖化などの地球環境の変化による生息環境の悪化」などがあり、現在では100年前より4万倍も早い、1日100種のペースで生物が絶滅しています。
海を汚しているものには、河川に流れ込む工場や家庭からの汚染物、船舶の運行で排出される油、地上や海上で投棄されるごみなどが考えられます。海洋に流れ込むごみの中で最も注目されているものが、海洋プラスチックごみで、主な被害者は海で暮らす生き物たちです。また、環境問題の中心になっているとも言える地球温暖化の影響を受ける絶滅危惧種の種数は4,000種以上と発表されています。
中には、環境問題に対して「自分の生活に支障がなければ注視しない」という人もいます。しかし、この記事では「生物多様性は人間のためにあるものではなく、それ自体に価値がある」という考えに基づき、人間が引き起こす環境問題が、人間以外の生物にどのような影響を及ぼしているのかを考えたいと思います。
動物たちへの被害
海氷面積の減少
地球温暖化の影響で、北極圏の海に浮かぶ海氷面積が減少しています。ホッキョクグマはアザラシなどの獲物を氷の上で捕まえるため、海氷面積が小さくなると狩りが難しくなります。また、夏に海氷がなくなる期間が長びいてしまうと、獲物を獲ることができず何も食べることができない期間が長くなり、栄養失調になってしまうことも。また、ホッキョクグマと同様に海氷を生息場所の一つとしているセイウチなどの他の動物も、地球温暖化によって海氷面積が減少したことによって、採食や繁殖、休息の場所を失っています。
さらに、海氷面積の減少は、温度の上昇による海水の膨張と合わせて、海面の上昇の主な原因となっています。海抜の低い島国でこれまで通りの生活ができなくなる住民がいるのと同じように、砂浜の減少によって住みかや産卵場所、餌場を失った渡鳥などの生き物もいると言われています。
食べ物・飲み物の枯渇
地球温暖化を原因とする異常気象によってもたらされたと考えられる干ばつは、森を枯死させています。オーストラリアではコアラの主食であるユーカリの森が減少し、水分を得ることのできなくなったコアラが命を落とす事例も。
また、地球温暖化をもたらす温室効果ガスで最も知られる二酸化炭素(CO2)ですが、空気中で増加した二酸化炭素が大量に海に溶け込むことで生じる「海洋酸性化」が問題視されています。海洋の酸性化によって食物連鎖の下位に属する植物プランクトンや小さな動物プランクトンの発生量が激減すると、それを主食とするシロナガスクジラなどの生物は、栄養不足になる可能性があります。
性別のバランスが崩れる
ウミガメ類の性別は、卵が生み落とされた砂浜温度によって決まります。砂浜の温度29.5℃以下だとオスが、それより高いとメスが生まれるのですが、地球温暖化によって砂浜の温度が上がると、メスが生まれやすくなってしまうのです。過去の調査の中には、なんと9割がメスの海岸があったという報告もみられます。
また、ウミガメのメスが生まれやすくなるだけでなく、海水温度が高くなることによってオスが生まれやすくなる魚や、気温が高くなることでオスが生まれやすくなるワニなど、気温の変化によって性別のバランスが崩れる生物は他にも存在します。片方の性別が多くなりオスとメスのバランスが偏ってしまうと、繁殖が難しくなり、絶滅につながることも。地球温暖化は種の存続にも関連する可能性があることが分かります。
プラスチック餓死
プラスチックごみは、生物の住みかを汚染したり、体に巻き付いたりして被害を与えるだけでなく、食べ物と間違えて食べられることがあります。プラスチックごみの中でも、海洋に流れたビニール袋は海を漂う様子がエサとなるクラゲやイカ、タコのように見えるそう。「プラスチック餓死」は、このようにプラスチックを食べ物だと勘違いして食べた動物が、消化されないプラスチックが胃に入った状態を満腹だと勘違いしてしまい、栄養が摂れないまま餓死してしまうこと。
被害が報告されている生物は、クジラやウミガメ、イルカ、アザラシ、そして海鳥など。プラスチック餓死した生物の死骸からは、ビニール袋をはじめとして、プラスチックフィルムやペットボトルのキャップなど、さまざまなプラスチックゴミが出てきています。中には親鳥がヒナにペットボトルのキャップやライターをエサと間違えて与えてしまうことも。ポイ捨てなどで自然環境にごみが流出することのないよう、対策を徹底する必要があります。
環境問題から動物を守るために私たちにできること
人間の他の生物との共生と環境問題の関係に関心を持つ人は、深刻さを理解して「このままではいけない!」と思っているはず。それぞれの国がSDGsなどの国際的に達成するべき目標を推進していますが、その方針を元に人々が具体的な取り組みを行うことも大切です。人間の産業や暮らしによる、生物多様性や生態系の破壊を防ぐための配慮を、まずは知ることから始めてみましょう!
海洋汚染を止める取り組み
ごみ拾いをする
まずは人間以外の動物が住む場所に、ごみを流出させないことが重要です。普段の生活でごみ拾いを取り入れることは難しいかもしれませんが、イベントへの参加や、散歩やランニング、家の周りの掃除のついでなど、前向きにごみ拾いに取り組む方法はたくさんあります。軍手・トング・ごみ袋の3つがあればすぐに始められるのも、取り組みやすいポイントです。
原料や素材を変える
ごみはきちんと分別をしてごみ箱に捨てたとしても、回収や運搬の際に意図せず流出してしまうことがあります。自然環境に残ってしまうごみをできる限り減らすためには、ごみが意図しない流出時に自然に還るように、モノを作る段階で環境に配慮された素材を選ぶことが必要です。
例えば、日本では2020年からレジ袋の有料義務化が始まり、その翌年にプラスチック資源循環促進法が施行されています。これをきっかけに、お店などで無料で配布されていたプラスチック類が紙などの他の素材に置き換えられています。レジ袋が日本から毎年排出される廃プラスチックに占める割合はたった2%程度と言われています。確かにプラスチックを減らすという観点ではインパクトが弱いかもしれませんが、その1枚を誤食してしまう生物がいることを考えると、紙袋など別の素材に置き換える必要性が感じられます。
使い捨てを辞める
生物が誤食してしまっているプラスチックが、ストローやペットボトルのキャップ、ビニール袋であることから、ものの使い捨てを減らす必要があることが分かります。例えばストローは、シリコン製やステンレス製の繰り返し使えるものに置き換えることができます。また、マイボトルを持ち歩くことでペットボトルを使わずに生活することも可能です。
\もっと詳しく知りたい人は/
地球温暖化を止める取り組み
エネルギーを無駄にしない
節電や節水は少し意識するだけで簡単に取り組める、最も基本的な環境対策。
・早寝早起きをして電気をつける時間を短くする
・歯磨きやシャワー、食器洗いの時に水を出しっぱなしにしない
・続けてお風呂に入って追い焚き機能を使わない
など、日常でできることはたくさんあります。
また、リサイクルできる資源とごみをしっかり分別したり、生ごみの水気を取ったりして、燃えるごみの量が減れば、ごみの運搬や燃焼時のエネルギーを減らすことができます。生ごみの水気取りには水切り紙袋がおすすめです。プラスチック製のごみ袋を使っている場合は脱プラスチックにもなり、臭いやヌメリも少なくなるため家事ストレスの軽減にもつながります。
地元で採れた旬の野菜を食べる
地産地消は、海外からの輸入品などと比較して輸送にかかるエネルギーが少なくなります。また、人工的な条件下で無理に成長させることなく、自然に合わせて作られた旬の食材は、生産や保存に使われるエネルギーを低く抑えることができます。
最近では、地元の野菜を集めたコーナーが設置されているスーパーも見かけるようになりました。無理なく楽しみながら地球に優しいお買い物をするために、お気に入りの農家さんを探して購入するようにするのもおすすめです。
公共交通機関を利用したり、運転の仕方を工夫する
最もエコな移動方法は自転車や徒歩ですが、天候が悪い時や長距離を移動する時は、自家用車ではなくバスや鉄道などの公共交通機関を利用することで、一人当たりの二酸化炭素排出量を抑えることができます。
交通の便が悪く車を使わざるを得ない時は、エコドライブを心がけましょう。
・不要な荷物を下ろす
・穏やかにアクセルを踏んで発進したりする
・減速時に早めにアクセルを離してエンジンブレーキを活用する
など、自分の運転を見直してみましょう。
\もっと詳しく知りたい人は/
野生動物を守る活動に参加する
大前提として、絶滅の恐れがある生き物は捕まえたりしてはいけません。ペットや外来種を安易に自然に放してしまうことも、その場所の生態系の崩壊に繋がる可能性があります。
野生動物の保護は世界自然保護基金WWFをはじめとするNGOやNPO、有志団体が取り組んでいることが多い活動です。私たちができることの1つは、活動に共感できる団体に寄付をしたり、サポーターになったりすること。団体のサイトから1,000円程度で1回の募金から支援できるものもあります。
また、消費者として野生動物の保護団体を支援している企業の商品やサービスを利用することも、間接的に貢献することにつながります。例えば、大昭和紙工産業株式会社の特定非営利活動法人サンクチュアリエヌピーオーへの支援に賛同する企業や店舗の製品には、海を守るマークが記載されています。他にも環境に配慮されていることや、動物に危害を与えないことを保証する認証マークがあります。
行動したい!という人は、各団体が開催するイベントに参加することもできます。例えば、海洋ごみをマイクロプラスチックまでキレイに清掃する活動や、失われた砂浜を回復する活動、ウミガメの子どもを保護する活動などが実施されています。大人はもちろん、子どもの教育にとっても良い機会になるので、家族みんなで参加するのもおすすめです。
\早速参加してみる?/
\スタッフも参加してみました/
まとめ:動物にも目を向けてみよう!
今回は、地球温暖化や海洋プラスチックごみが、私たち人間の社会でなく動物に与える影響について考えました。自分の生活の中で感じることはなくても、私たちの暮らしを原因とする海洋汚染や地球温暖化は、私たち人間とともに生物多様性を豊かにするはずの動物に影響を与えています。
環境のための取り組みは、自分たちの生活にとって負担になるイメージもあるかもしれませんが、マイボトルを持ち歩いたり、エネルギーの使用を抑えたりすることが、経済的な負担を減らすことにもなります。また、ごみ拾いや保護活動に参加することが、新しい人や情報との出会いの場になることも。
生物多様性や生態系の観点まで視野を広げて、環境に配慮した取り組みを行いませんか?
(参考)
環境省「生物多様性とはなにか」「「エコドライブ10のすすめ」の改訂について ~地球と財布にやさしいエコドライブを始めよう~」
環境省生物多様性センター「生物多様性と生態系サービスの経済的価値の評価」
グリーンピース・ジャパン「気候変動により危険にさらされている驚くほどかわいい5種の動物たち」
気候変動適応情報プラットフォーム「高温対策で孵化(ふか)率を上げる「ウミガメ保護発祥の地」の試み」
気象庁「海洋酸性化の影響」
基礎生物学研究所「温度でオスとメスが決まるミシシッピーワニの性決定の仕組みにはTRPV4チャネルが関与する」
公益財団法人日本野鳥の会「海洋プラスチックゴミから海鳥を守ろう」
国立大学法人山形大学「野生生物種の絶滅」
札幌市「知っていますか?生物多様性のこと」
全国地球温暖化防止活動センター「2-2 海面上昇の影響について」
総務省「公害等調整委員会| レジ袋有料化について」
WWFジャパン「生物多様性とは?その重要性と保全について」「地球温暖化による野生生物への影響」