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微生物で環境問題を解決!地球を救う環境浄化研究の取り組みを紹介

微生物で環境問題を解決!地球を救う環境浄化研究の取り組みを紹介

微生物とは「微小な生物全体の総称」で、生物分類学上では肉眼で見ることができない、または肉眼で細かいところまで観察できない生物を微生物と呼んでいます。細菌や酵母、カビ、キノコなどの菌類などは人間の生活に身近な代表的な微生物といえるでしょう。その微生物が環境問題解決の切り札になるかもしれないということはご存じですか?

この記事では微生物とは何かから始まり、微生物の環境問題への応用研究や活用の実例、微生物を活用した環境対策のメリット・デメリットや、微生物の活用が環境問題の解決にもたらす未来について紹介します。

微生物の誕生の経緯とは?

微生物で環境問題を解決!_微生物誕生の経緯

 

私たちの目で直接見ることができない微生物。その誕生はいつなのか?一体、どこからきてどのように進化していったのか、この項目で紐解いていきましょう。後半には、カビや真菌など、私たちの生活に身近な微生物も紹介します。

微生物は地球最古の生き物

地球が誕生したのは今から46億年前のこと。当時の地球には酸素がなく、海は灼熱のマグマであふれ、生物が棲めるような環境ではなかったといわれています。そんな中、40億年前に誕生した初めての生命が「微生物」です。地球で最初の生命体として誕生した微生物は、100℃以上の熱い環境でも生きることができ、地中から出てくる水素や硫化水素を使って生育していたと考えられています。

 

その後、微生物は長い年月をかけて進化し、今から約27億年前には光合成を行うようになりました。現代の陸上植物と同様に光合成によって二酸化炭素と水から有機物を作り出し、地球上で酸素を作り続け、同時に大気中の二酸化炭素を取り込むことによって、地球の大気と気候は大きく変化していきました。その後に動物や植物の祖先となる多細胞生物が生まれるまで、30億年もの間、微生物が地球上唯一の生物として生き続けていたのです。

微生物はどこにいる?

微生物は地球上のいたるところにいるといわれています。例えば空気中や川、湖や沼、水田、畑、海、そして動物や植物の身体などです。微生物は風に乗り、地球のすみずみへと拡散していきました。たどり着いた場所で増殖を始めますが、適応できなければ死滅してしまいます。中には高熱の中や厳寒の地で生き抜き、また水の中を泳ぐ能力を獲得したり、火山の酸性の環境で増殖するなど、実に多種多様な微生物が生まれていきました。

微生物が地球にもたらす役割って?

その誕生から今まで、様々な環境に適応した微生物が出現しましたが、今の地球上での微生物の役割で代表的なものが、多様な生物が織りなす「生態系」での役割です。微生物は「分解者」という役割を担っていて、地球上の全生物の排泄物や死骸を分解して処理する「地球の掃除役」として存在しているのです。

 

多くの動物は、植物やそれを食べた動物を捕食し、糞をします。また植物や動物には寿命があり、いつか死んでしまい死骸となりますが、微生物がこうした糞や死骸を分解することで地球の環境が保たれているのです。糞や死骸は微生物にとっては栄養豊富な食べ物で、微生物がそれらを食べて分解していくことで、糞や死骸に含まれていた栄養分が土や水の中に還っていきます。こうした生態系の循環サイクルに微生物は絶対に欠かせない存在です。

 

\微生物も関わる土中環境/

 

私たちに身近な微生物って?

気の遠くなる程の長い年月、地球上で生きながらえてきた微生物ですが、最初にお伝えした通り、細菌や酵母、カビ、キノコなどの菌類は人間の生活に身近な微生物として知られています。

 

最も身近な微生物は「細菌」です。細菌は病気をもたらすなど悪いイメージがありますが、実は私たちが生きていく上で欠かせない細菌も存在します。それが皮膚の上にいる常在菌や腸内に棲みつく腸内細菌です。皮膚の上の常在菌は汗や皮脂を餌として酸性の物質を作り出し、私たちの肌を弱酸性のバリアで守ってくれています。

 

また私たちの腸管には約100〜1000兆個の腸内細菌が共存していて、個人差はありますが約1000種類もの腸内細菌が棲みついているといわれています。周知の通り、腸内細菌がいないと食べたものが分解されず栄養を吸収することもできなければ、食べたカスを排泄物として出すこともできなくなるのです。

 

この他、酵母やカビなどの真菌も微生物の一種ですが、パンやワイン、日本酒や醤油、味噌や納豆など食品の熟成・醸造過程で大切な役割を持つものも多く、麹菌や納豆菌などは私たち日本人の食生活に切っても切り離せないものとして古くから知られています。これらは有用菌に分類され、人の体内で増殖し感染症を引き起こす有害な細菌とは区別されています。

微生物の力で環境問題を解決できるってホント?

微生物で環境問題を解決!

 

自然界に数多く存在する微生物。この微生物が持つ「分解」「処理」などの能力を環境問題の解決へ応用する取り組み「バイオレメディエーション」が昨今、注目を浴びています。この項目ではバイオレメディエーションとは何か、その歴史や仕組みについて紹介します。

バイオレメディエーションとは?

微生物の働きを利用し汚染物質を分解することによって、土壌や地下水など環境汚染の浄化を図る技術のことを「バイオレメディエーション」といいます。名前の由来は生物や生命を表す「Bio(バイオ)」と修復という意味を持つ「remediation(レメディエーション)」からきており、日本語で直訳すると「生物を利用した環境修復技術」となります。

 

バイオレメディエーションは様々な汚染物質を浄化できる可能性があるといわれ、理論上投入するエネルギーが少なく、比較的低コストでできることから、これからまだ伸び代のある環境浄化法の一つと考えられています。

 

バイオレメディエーションは、1970年代のアメリカでパイプから漏れた石油による汚染の分解に利用されたのがその始まりとされています。日本においては1990年代以降に試験が行われ、バイオレメディエーションは薬品や高温高圧水を利用した物理化学的な浄化方法に代わり、土壌・水質汚染対策へのニーズの高まりと共に利用拡大が期待されています。

バイオレメディエーションの種類や仕組みとは?

バイオレメディエーションには、外部で培養した微生物を導入することにより浄化を行う「バイオオーグメンテーション」と、浄化する場所に生息している既存の微生物に栄養物質等や酸素を加えて微生物を活性化する「バイオスティミュレーション」、植物を利用して土壌の浄化を行う「ファイトレメディレーション」の3つがあり、汚染の原因物質や汚染場所の状況に応じ最適なものを選択して行います。

 

1.バイオオーグメンテーション

バイオオーグメンテーションは、汚染場所に汚染物質を分解する能力を持った微生物が少ないか少量しか存在しない場合に、大量に培養した微生物を外部から投入し、汚染物質を分解する方法です。分解する微生物の増殖を促進させ、分解や活性を高めるために、空気や窒素、リン、炭素源などを添加することもあります。

 

2.バイオスティミュレーション

バイオスティミュレーションは、汚染された土壌に存在している汚染物質を分解する性質をもった微生物に外部から水、酸素、栄養物質など、微生物の増殖を促す物質を加えて刺激して増殖させ、汚染物質の分解を促進する方法をいいます。ガソリンや重油、軽油などの石油系炭化水素による汚染の場合、増殖を促進するために栄養素である窒素やリンを始め、微生物が増殖するために必要な空気などを供給する手法が取られます。

 

3.ファイトレメディエーション

ファイトレメディエーションは、植物(phyto)が持つ重金属を吸収する力を応用した浄化方法で、そうした植物を主に汚染された土壌で栽培して、収穫・廃棄する浄化方法をいいます。重金属はいったん土壌に入ってしまうとなかなか取り除くことができないため、植物の力を借りて除去する方法が注目されています。対象となる植物にはイネ科の植物やアブラナ科の西洋カラシナ、キク科のヒマワリなどが注目されています。微生物との直接的な関わりは確認されていませんがバイオレメディエーションの1つとして覚えておいてください。

どんな微生物でもいいわけではない

バイオレメディエーションに利用される微生物はどれでもいいわけではなく、より該当する汚染物質の分解を得意とする種類を的確に選ばなければなりません。例えば、石油を分解するには、石油に適応能力のあるカンジダ属やアシネトバクター属などが選ばれるそうです。また空気中に揮発しやすいトリクロロエチレンなどの揮発性有機塩素化合物の分解には、酸素を好む好気性細菌と酸素を嫌う嫌気性細菌などを状況によって選ぶなど、これまでの研究でどの微生物が効果が高いかなど実証実験が続けられています。

微生物が切り札となる環境問題と取り組み

微生物で環境問題を解決!_微生物が切り札となる環境問題

 

長い地球の歴史の中で増えすぎてしまった人類は、化石燃料に頼りきった生産活動によって、CO2などの温室効果ガスを排出し続け、プラスチックを消費しゴミとして燃やしています。発展途上国では大気汚染が常態化し、ゴミの埋め立てや工業排水などにより土壌汚染や水質汚染が深刻化するなど、様々な環境問題を引き起こしています。その中でバイオレメディエーションなど、微生物の持つ分解作用を応用して解決に導ける可能性があるのが、次の5つの環境問題です。代表的な取り組み例と共に紹介します。

 

1.土壌汚染問題

環境問題の中でもバイオレメディエーションによる改善が期待されるのが土壌汚染対策です。土壌から有害物質が検出された際、その後の土地を農業地にするなど用途によって、先に紹介したバイオオーグメンテーションを用いて土壌改良を行っています。農業地では微生物による土壌改良後に農産物の生育や生産量が向上するなど効果も出ているそうです。

 

\日本の土壌汚染の原因は?/

 

2.水質汚染問題

水質汚染については、バクテリアの作用を利用して水中の鉄分等を酸化して除去する「生物接触ろ過法」や、酸化力の強いオゾンをマイクロバブルとして注入することで、汚染水を公共用水域や下水道に排水できる濃度まで浄化する技術が注目されています。これらは薬品をほとんど使用せず、汚泥の発生量が少ないという点でも期待されています。

 

\水質汚染の原因と対策/

 

3.海洋汚染問題

海洋汚染における最悪の事態は、沿岸を航行する船舶の座礁や沈没事故で原油が海に流出することです。日本では1997年に日本海で起こったナホトカ号の事故で、バイオレメディエーションによる浄化作業が取り入れられました

 

ナホトカ号は天候不良で日本海で一部が沈没、船体の一部が油を垂れ流しながら福井県三国町へと漂着しました。付近の海岸には油が押し寄せ、海産物はもちろんのこと、海岸や岩礁などが油にまみれ、付近の町には異臭が漂っていたといいます。 一般的に油の流出事故には油処理剤を使用しますが、当時の処理剤には強い毒性があり、漁港の近海に毒性の高い油処理剤を使用することは環境への影響を考えて避けたいということでバイオレメディエーションを併用することになったそうです。

 

当時、バイオレメディエーションはそこまで認知されておらず、大規模な海洋汚染での効果検証は初めてでした。この時は油による汚染物質を分解することがあらかじめ確認できている微生物を投入する「バイオオーグメンテーション」が用いられました。

 

地元の漁業協同組合や大学、水産試験場などによる専門家チームが組まれ「ナホトカ号海洋油汚染バイオレメディエーション研究会」が発足されました。海岸に漂着した重油から手始めに、漁港全体の浄化には5ヶ月間に渡って人海戦術での重油回収作業が行われたそうです。回収しきれない重油はバイオ製剤の散布で浄化を試みるなど完全に重油を回収するまでは困難を極めたといわれています。

 

この事故を契機に国立環境研究所が日本海域の油汚染に対する環境修復のためにバイオレメディエーション技術と生態系影響評価の検証を実施するなど、バイオレメディエーション技術の有効性と安全性について研究を行ってきました。ただ現状は、後にあげるデメリットなどから十分に普及しているとはいえないようです。

 

4.大気汚染問題

大気汚染をバイオレメディエーション技術で浄化する方法としては、自動車の排出ガスなどを土壌が持っている微生物などによる浄化機能を利用して、きれいにする方法があります。土壌中に汚染された空気を送り込み、土壌に吸着させたり微生物が分解される仕組みで、窒素酸化物(NOx)などの有害物質が取り除かれるそうです。このシステムは浄化の際に廃棄物が発生しないことや、窒素化合物以外の一酸化炭素などの汚染物質を同時に浄化できることから、道路の中央分離帯や公園での活用が期待されています。

 

参考:独立行政法人 環境再生保全機構 | 土壌を用いた大気浄化システムの実用性に関する調査

 

\大気汚染に影響がある排気ガス/

 

5.プラスチックゴミ問題

私たちの生活の中で出るゴミとして依然問題となっているのが、石油から生成されたプラスチック類です。これらのプラスチックは土に埋めても分解されず、土壌から環境ホルモンなどの有害物質が検出されたり、海に流れ出て海洋汚染を引き起こしたり、海洋生物の生態系バランスを乱すなど、長年に渡り大きな問題となってきました。

 

そこへ飛び込んできたのが、国内外の研究者によってもたらされた「プラスチックを食べる微生物がいる」という報告でした。例えばある昆虫には発泡スチロールやビニールを消化する機能があり、詳しく調べたところ体内にプラスチックを分解する細菌が棲みついていたそうです。またペットボトルに使われるポリエチレンの一種を栄養源とする微生物がいるという報告もありました。

 

石油を食べる微生物がポリプロピレンを分解する?

「プラスチックを食べる微生物」の実例として高知大学農林海洋科学部が行った実験を紹介します。この実験では液体状にしたポリプロピレンを海洋深層水に添加し、ポリプロピレンを食べる微生物がいることを突き止めました。その微生物は「アルカニボラックス(Alcanivorax)」という属の細菌で、石油の主な構成成分でもあるアルカンの分解菌としても有名で、タンカーの事故などで流出した石油を主に分解し、浄化することがわかっていました。

 

高知大学農林海洋科学部では、アルカニボラックスによってポリプロピレンが生分解されるという実証データと論文を世界で初めてアメリカの学術誌に発表しました。また同大学ではアルカニボラックス以外にもポリエチレンやポリプロピレンを分解する菌を獲得しており、こうした微生物がプラスチックを分解する仕組みを解析し、将来的に海洋プラスチック問題を解決するために今も研究を続けています。

 

参考:高知大学 農林海洋学部 | 世界初!プラスチックを分解する微生物から石油を生み出す微生物まで

 

\生分解は微生物の力/

 

微生物を活用した環境対策のメリット・デメリットって?

微生物で環境問題を解決!_微生物を活用するメリット・デメリット

 

微生物の活用については、自然界にいる生き物ということでメリットしかないように思われますが、試験的に使われてから今まで、かなりの実証実験が行われたり、関係省庁によって導入するためのガイドラインを検討するなど、一筋縄では行かない経緯もあったそうです。

検証を重ねた結果、バイオレメディエーションには環境や人体への影響が少ないなど、一定のメリットがある一方で、分解に時間がかかるなどデメリットがあることもわかりました。バイオレメディエーションのメリット・デメリットをそれぞれ3つずつ紹介します。

 

バイオレメディエーションのメリット

1.環境や人体への影響が少ない

微生物による環境浄化は、特殊な化学物質や高温・高圧での処理を必要としないため、環境への負荷が小さく生態系への影響を抑えられるといわれています。またこうした浄化作業自体が生態系や人体へ影響を与えないように配慮されたプロセスで行われなければ実施できないため、信用性が高い浄化法といえます。

 

2.低エネルギー・低コストでできる

微生物による環境浄化は、常温・常圧で行われることが多く、高温・高圧の作業に比べてエネルギーをあまり必要とせず、コストを低く抑えることができます。また浄化する際は土を掘削することなくその場で浄化微生物や栄養剤などを注入できるため、作業効率が高く経済的な負担も他の浄化方法に比べて低いといわれています。

 

3.広範囲に使用できる

従来の化学物質の投入や加熱などによる物理的な浄化方法では、土壌の掘削などの作業が必要となり、広範囲な汚染の場合は作業効率が低下するなどの課題がありました。微生物による環境浄化は土を掘り起こしたり移動させたりしなくても、その場に適応する微生物を補ったり活性化させるために栄養を与えればよく、広範囲での汚染の浄化が可能になるといわれてます。

 

バイオレメディエーションのデメリット

1.浄化完了までに時間がかかる

微生物による環境浄化は、生き物の活動に頼る浄化技術のため、作業を開始してから効果が現れるまでに数週間〜数ヶ月、浄化が完了するまでには数ヶ月~数年かかることがあります。また環境中に微生物を投入するバイオオーグメンテーションでは「微生物によるバイオレメディエーション利用指針」(2005年経済産業省、環境省告示第4号)により、生態系等に影響を与えない方法で行うことが必要とされます。浄化を行う事業者はあらかじめ経済産業省や環境省に浄化作業計画書を提出して確認申請を行い、審査の結果、生態系や人への健康被害がないと判断された微生物のみが浄化に利用されるなど、手続きにも時間を要します。

 

2.汚染濃度によって効果が下がる

汚染物質の濃度自体が高いと、分解をする微生物の負荷が大きくなることから、分解速度が遅くなり効率が低下するといわれています。また石油流出など海洋汚染の浄化では、複雑な地形の海岸など作業環境が異なると、浄化効果についてもバラつきが出ることが懸念されます。導入する際には事前に試験をしたり、作業範囲や工程を綿密に計画する必要性があります。

 

3.複数の有害物質が混ざると浄化が難しい

土中や水中の汚染状況によっては、有害物質が複数混ざっているため、微生物がうまく活動できず、浄化が難しい場合があります。その微生物がどんな有害物質を分解するかは、研究機関などで一つ一つ検証していく必要性があり、現在でも研究が続けられています。今後の研究によっては異なる有害物質が混在していても、分解できる微生物が見つかるかもしれません。

 

微生物を活用した環境問題解決の未来とは

微生物で環境問題を解決!_微生物を活用する未来

 

先の項で、プラスチックを食べる微生物のことをお伝えしましたが、微生物を利用して環境浄化を行うバイオレメディエーションでの環境浄化は、まだ十分に伸び代のある研究分野といえるでしょう。ここではバイオレメディエーションの市場規模や期待されている環境問題解決のアイデアなどを紹介します。

 

バイオレメディエーションの市場規模

カナダにある市場調査会社のEmergen Researchの分析によると、2022年の世界的なバイオレメディエーションの市場規模は138億2千万ドルにも上るといわれ、今後も世界中で拡大の一途をたどるといわれています。一方で日本での市場規模については土壌・地下水浄化全体の市場規模が約2千億円程度とされており、そのうちバイオレメディエーションの市場は年間100億円程度と推定されています。日本と比較すると、世界ではバイオレメディエーション関連のマーケットがとてつもなく大きな市場だということがわかります。

 

欧米では環境浄化にバイオレメディエーションがまず最初に採用されるのに対して、日本ではまだわずか数パーセントにとどまるなど、広く普及しているとは言い難い状況にあるようです。その原因としては、デメリットの項目でも挙げた浄化完了までの時間や、関係各所への申請書の提出や受理までに時間がかかる点が挙げられます。現在、短時間で効果のあるバイオレメディエーションの研究が続けられており、日本でも今後の成長が期待できる市場といえるでしょう。

 

微生物活用の具体例

日本における環境問題で微生物の活用は、欧米に比べてまだこれからという状況ですが、それでも100億円の市場規模があり、今後の伸び代が十分に期待できます。ここでは工業生産分野や発電、土壌改良などの環境浄化や代替エネルギーとしての活用例を紹介します。

工業生産分野への活用

微生物の工業生産への応用も今後注目される分野の1つです。中でも植物や農産物、廃棄物などのバイオマス(=再生可能な、生物由来の有機性資源で化石資源を除いたもの)を原料とした「Biorefinery(バイオリファイナリー)」は、バイオ燃料やグリーン化学品を生産する技術や産業、プラントを意味し、地球温暖化防止に貢献する技術として大きな期待が寄せられています。

 

そのプロセスではバイオマスである農産廃棄物や未利用の食品廃棄物、古紙などが、燃料(エタノール、ブタノールなど)や付加価値の高い化学品(有機酸、芳香族化合物、アミノ酸など)に変換されます。こうしたバイオ燃料や化学製品などの製造分野で、石油資源への依存度を下げ、環境負荷の少ない生産プロセスにつなげることは、環境問題解決にとっても重要です。バイオリファイナリーの技術的なメリットには、次のようなものがあります。

 

  1. 化石資源の消費に由来するCO2排出を抑え、地球温暖化防止に貢献できる
  2. 原料生産地域の農業活性化につながる
  3. エネルギーの削減に貢献できる
  4. バイオマスから作られたバイオプラスチック製品が廃棄・分解されるときに排出されるCO2との相殺でカーボンニュートラルにつながる

 

バイオリファイナリー技術では、微生物による発酵プロセスを活用して様々な製品を作ることが可能になりますが、微生物をいかに効率的に働かせ、大量の製品を生産できるかは、その微生物の性質が鍵となってきます。先に紹介したバイオレメディエーション同様、最適な微生物を探す研究が続けられ、こうした技術をどんどん実用化することで、環境問題解決の道筋が開けることでしょう。

 

工微生物×発電技術

微生物の活用に関しては、微生物の持つ性質を利用した発電も注目されています。「微生物発電技術」とは有機物を分解する微生物(発電菌)を利用して電気エネルギーを生み出す技術のことをいい、微生物が有機物を分解する際に放出する電子を回収して発電する仕組みで、微生物燃料電池(MFC)とも呼ばれています。微生物発電技術のメリットは次の6つが挙げられます。

 

  1. カーボンニュートラルなバイオマスを燃料として使用できる
  2. 発電時に燃焼を伴わないため、火災や爆発などのリスクが低い
  3. 発電菌の環境負荷が小さく、安全性の高い再生可能エネルギーであること
  4. 水や排水などの液体に酸素や空気を送り込み、液中の酸素濃度を増加させる曝気(ばっき)と呼ばれる処理操作に必要な電力量を削減できる
  5. 発生したエネルギーを電気として取り出すため微生物の増加を抑えられ、余った汚泥の量も削減できる
  6. 廃棄物処理と発電を同時にできる

 

微生物発電技術は、途上国が自立して活用できる循環型の技術として注目されています。日本では2024年に四国電力と東京農工大学大学院工学研究院のグループにより、愛媛県内のみかん農家で微生物燃料電池に関する実証実験が行われました。土壌微生物である発電菌は自然界の土壌に広く存在し、植物の光合成によって栄養を吸収・分解する際に、電子を放出するという特性を持っています。発電菌の特性を利用した「微生物燃料電池」は電源のない屋外などでも電気を生み出せると注目されています。

 

東京農工大学では、微生物燃料電池の発電効率や安定性の向上に向けて技術・研究に取り組み、同大学のベンチャー企業を通して実用化・商用化を目指しています。この実証実験は2025年3月末まで継続され、農業のスマート化や省エネルギー化に取り組むなど今後の展開が期待されています。

 

参考:四国電力 | 愛媛県における発電菌の働きを利用した「微生物燃料電池」に関する実証試験の実施について

 

バイオサイクルでの土壌改良

バイオマス資源の活用例では、生産過程で生じる副生物である発酵液を利用した土壌改良例も報告されています。大手食品メーカーでは、主力商品のうま味調味料の原料であるサトウキビやキャッサバ、トウモロコシなどから抽出した成分と発酵菌を混ぜ合わせ発酵させてアミノ酸の製造過程で生まれた発酵液などの副生物を、サトウキビなどを成育するための肥料として活用するなど、循環型の生産工程を構築しています。この循環型の生産工程を「バイオサイクル」と言います。今まで廃棄していたこうした産物を微生物発酵の力を借りて有益なものに変えていく事業は、土壌改良や農産物の生産向上に貢献し、新たなビジネスとなる可能性を秘めています。

 

参考:味の素株式会社 | 「味の素®」の副生物で農作物を元気にする!味の素グループが取り組むバイオサイクルとは?

 

AI×微生物への応用

人工知能(AI)は、微生物の応用分野でも今後ますます見過ごせない存在となっていくことが予想されます。微生物がどんな特性を持ち、また環境浄化にどのように適応するか、これまでも世界中の研究者の地道な努力で実証実験が行われてきました。ただ地球上に生息する微生物の数は世界人口の82億人よりはるかに膨大で、兆の上の単位である京(ケイ)や垓(ガイ)を超えて穣(ジョウ)までに達するといわれています。 そんな天文学的にたくさんの種類の微生物の生態を改名するために期待されているのがAIとビッグデータによる解析です。AIは膨大な量の微生物データの解析と理解を可能にし、これらの導入により微生物データの解析が容易になり、今後また微生物に関する新たな知見が得られると期待されています。

 

こうした微生物のデータは、新たな病原菌の検出や微生物の持つ機能の予測を可能にし、医薬品のターゲット選定など、様々な分野での活用が期待され、ここまでお伝えしてきた微生物による環境浄化作用のさらなる発展のためにも大いに有効です。有害物質に適合する微生物の特性を解析したり、環境モニタリングの高度化など、AIと微生物をかけ合わせることでの多岐に渡る応用が期待されています。

まとめ

いかがでしたか? 私たち人間よりはるか太古の昔から地球の住人として存在し、また数の上でもはるかに人間をしのぐ微生物。その秘められたパワーはこれまでの人類の暮らしの中で発見され、様々に活用されてきました。環境浄化に対する有効な手段としても、また未知の分野の開発研究の素材としても、微生物はこれからの環境問題解決の糸口となる大切な存在であり、未来永劫、私たち人間と共存・共栄する生き物といえそうです。

 


参考・引用文献

国立研究開発法人 国立環境研究所 | 海域の油汚染に対する環境修復のためのバイオレメディエーション技術と生態系影響評価手法の開発 平成11〜14年度(2003年9月)

日本微生物生態学会 アウトリーチサイト | 1.微生物ってなに?どんな生物?

環境省 | バイオレメディエーションとは

環境省 「プラスチック資源循環」 | バイオプラスチックとは?

環境省 | 微生物によるバイオレメディエーション利用指針(告示)の策定について(2005年3月)

環境省 | ナホトカ号油流出事故環境影響評価総合検討会中間報告書について(1998年4月号)

株式会社バイオレンジャーズ | ナホトカ号の重油流出事故の浄化に貢献

バイオレメディエーション現代技術編集委員会 | バイオレメディエーションの現代技術

東京電機大学 | バイオリファイナリー(Biorefinery)とは

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