「環境問題のために、自治体も何かすべきなの?」
「地方自治体は、環境問題にどう取り組んでいる?」
いま世界は、国境をまたぐ大気や海洋の汚染、地球温暖化による気候変動など、グローバルな環境問題に直面しています。地球規模の環境問題であっても、原因をさかのぼれば私たち個人の活動に結びついていることを考えれば、解決の糸口は一人ひとりの生活の中にあるといえるでしょう。
市民の生活に一番近いところで、国の方針や政策を取り入れながら、市民とともに環境問題に取り組んでいるのが地方自治体です。
この記事では、SDGsや環境問題に関して自治体の取り組みが必要とされる背景や、先進的な自治体の事例について解説していきます。
自治体が取り組む環境対策は?
グローバルな問題に関する危機感が高まるなか、国連の会議や国際条約の締約国会議などを通して、世界各国は協力し解決のための具体的な対策を進めようとしています。環境保全と持続可能な開発に焦点を当てた最初の国際会議は、1992年にリオデジャネイロで開催された国連環境開発会議(地球サミット)です。
その合意文書では、諸問題及び解決策の多くが地域的な活動に根ざし、持続可能で豊かな社会を実現する基盤は地域にあることが明確に述べられています。つまり、グローバルな課題であってもその解決には、自治体レベルでの取り組みが非常に重要だということです。
自治体の取り組みとして、例えば次のようなものがあります。
- 環境に関する基本計画や戦略の制定
- 環境教育の推進
- 自然環境の保全・再生
- 公共交通対策
- 市民協働のまちづくり
- エネルギーの地産地消
- ゴミ減量・循環型社会の構築
- 環境に配慮した産業の推進
- ISOなど環境マネジメントシステムの国際規格の認証取得
自治体の施策の中には自治体の広報で紹介されたり、計画策定にあたって市民からパブリックコメントを求める場合があるかもしれません。このように、自治体の環境問題に対する取り組みは市民の生活に密接に関わる内容が多くなっています。
自治体が取り組むSDGsと事例
将来的に人口減が予想されるなか、経済・社会・環境面の多様な課題を抱える自治体にとって、持続可能なまちづくりは避けて通れないテーマといえます。
中⻑期を⾒通した持続可能なまちづくりのためには、SDGsの達成に向けた取り組みを自治体主体で推進していくことが必要です。日本政府は、地⽅創⽣分野におけるSDGsモデルの構築に向け、優れた取り組みを提案する自治体を選定し⽀援するとともに、成功事例を普及していくと表明しています。
ここでは、特にSDGsの実現に向けた自治体の取り組みや、国による支援について紹介していきます。
そもそもSDGsとは?
SDGs(Sustainable Development Goals)は、誰一人取り残さない、持続可能でよりよい社会の実現を目指す世界共通の目標です。2030年を達成年限とし、17のゴールと169のターゲットから構成されています。
出典:内閣府地方創生推進室「SDGs未来都市・自治体SDGsモデル事業 事例集」p1(2021年6月)
SDGsが記載されている「持続可能な開発のための2030アジェンダ」は、2015年9月の国連サミットにおいて、加盟国の全会一致で採択されました。2001年に国連の専門家が主導で策定されたMDGs(ミレニアム開発目標)は開発途上国の目標でしたが、後継であるSDGsは、全ての国が取り組む普遍的な内容となっています。
17のゴールは、世界が直面する次のような課題を網羅し、統合的に解決しながら持続可能なよりよい未来を目指すものです。
- 資源の有効活用、不平等の解消など持続可能な成長を目指す経済面での課題
- 貧困や飢餓、教育など未解決の社会的課題
- 地球温暖化対策など地球規模で取り組むべき環境面の課題
2019年のSDGサミットにおいて、国連事務総長は、SDGs達成に向けた取り組みは進展しているものの、あるべき姿から遠く、さらに拡大・加速が必要との危機感を表明しました。日本はSDGsの達成にむけて積極的に取り組んでいますが、政府による取り組みだけでは実現が難しく、企業や地方自治体、市民一人ひとりの理解と協力が欠かせません。
日本のSDGsの取り組み
日本政府は、SDGsの取り組みを国内で推進するため、体制を整え実施指針を策定・改訂しています。総理を本部長とする「SDGs推進本部」は全閣僚を構成員とし、年に2回本会合を開催しています。
また、官民パートナーシップを重視して設置されたのが「SDGs推進円卓会議」です。円卓会議では、有識者、NGO/NPO、国際機関、各種団体からの参加により、活発な意見交換が行われ、そこでの議論は政府の政策に反映されています。SDGs推進のための中長期戦略である「SDGs 実施指針」は2016年に策定され、2019年に改定されました。
SDGs実施指針改定版では、2016〜19年における取り組みの現状分析に基づき、SDGsの17のゴールを日本の実情に合わせて再構成した8つの優先課題を提示しています。その内容は次のとおりです。
- あらゆる人々が活躍する社会・ジェンダー平等の実現
- 健康・長寿の達成
- 成長市場の創出、地域活性化、科学技術イノベーション
- 持続可能で強靱な国土と質の高いインフラの整備
- 省・再生可能エネルギー、防災・気候変動対策、循環型社会
- 生物多様性、森林、海洋等の環境の保全
- 平和と安全・安心社会の実現
- SDGs 実施推進の体制と手段
また、実施指針を基に政府の具体的な取り組みを加速させるため、 全省庁による施策を盛り込んだ「SDGsアクションプラン」を毎年策定しています。
以上のように、政府は国内の取り組みを確実に進め、世界共通の目標に向かって日本の責任を果たそうとしています。
自治体のSDGsの取り組み
自治体によるSDGsの取り組みの一つである「SDGs未来都市」は、SDGsの理念に沿った基本的・総合的取組を推進しようとする、特にポテンシャルが高い都市・地域です。SDGs未来都市は、経済・社会・環境の三側面において新しい価値を創出し、持続可能な開発と地方創生を実現しようとする都市・地域の中から日本政府によって選定されます。
さらに、SDGs未来都市のうち特に先導的な取組として、資金面で政府の支援を受けているのが「自治体SDGsモデル事業」です。2018年〜23年に全国各地の182都市がSDGs未来都市に、60都市が自治体SDGsモデル事業に選定され、地方におけるSDGsに資する取り組みを推進しています。2024年度は、長野県と岐阜県にまたがる9自治体が「広域連携SDGs未来都市」として選定されました。
自治体SDGsモデル事業の事例紹介
2023年度に「自治体SDGsモデル事業」として選定された自治体の取り組みから、3例をご紹介しましょう。
新潟県佐渡市
対象エリアは、EVの充電スポット空白地帯であるとともに、大雪での倒竹による停電や集落孤立の発生リスクを抱えています。環境・社会・経済の三側面の課題解決のために目指すのが、エネルギー×防災×観光のモデルづくりです。
- 太陽光発電によるEV充電設備の整備
多目的広場に太陽光発電とEV充電設備を設置し、EVの充電・周辺施設への給電・災害時における蓄電池からの電力供給に活用 - 未整備の竹林の竹を活用した竹チップ舗装
竹の利用が減り未整備の竹林が増えている状況で、令和4年の大雪では倒竹による停電や除雪への支障が発生。竹林の整備を促すため、竹の新たな活用として竹チップ舗装を推進。 - EVの充電時間を活用した観光促進
EV充電設備周辺の店舗や酒蔵で、佐渡の特産品や日本酒製造体験を提供。電動コミューターでの周遊なども取り入れた観光促進。
石川県野々市市
野々市市は、2つの4年制大学を有し多くの学生が暮らす文教都市です。「若者が主体となり、シミュレーションや社会実装を繰り返しながら自ら未来を創り続けるまち」を目指し、 ゲームの要素を活用した「ゲーミフィケーション」を利用した取組を実施しています。
- ゲーミフィケーション教材の活用
金沢工業大学とスタートアップ企業と連携し、カードゲーム・ボードゲームを活用した授業を市内小学校で実施。自分の興味を社会課題解決のアクションにつなげられるよう、小学生〜高校生を対象にSDGsに関するワークショップを開催。 - 市民のサステナブルスキル育成を促すオープンバッジ制度
国際標準規格としての「オープンバッジ制度」(知識・スキル・経験などの学習歴のデジタル証明)を導入。 企画者・指導者・実践者・参加者・応援者の5種のバッジにより、活動への参加歴や指導歴などを「見える化」する制度を計画。
福井県大野市
大野市の星空は、環境省の調査で日本一になるなど高く評価されていますが、星空の保護には街の光による「光害」の抑制と良好な大気環境の維持が必要です。星空を観光資源として活用し地域課題を解決するため、産学官民一体で光害対策・大気環境維持・星空観光推進に取り組んでいます。
- 屋外照明を光害対策型へ交換
「星空保護区」の認定対象地域において、防犯灯や県有・市有施設の屋外照明を光害対策型の屋外照明に改修。 - 星空を保護する普及啓発
大学や市民団体と連携し、市公民館や小学校での出前講座を通じて星空保護の啓発。市内の家庭・事業所・施設の照明を一斉に消す「ライトダウンイベント」を通して、星空の保護と省エネルギーの大切さをアピール。 - 脱炭素・森林保全を通した良好な大気環境の保全
森林の大気浄化機能を活用するため、市域の87%を占める森林の循環利用を推進。木質バイオマス発電への間伐材の利用・木製玩具の配布などのほか、児童がどんぐりから育てた苗木を植樹する活動を実施。 - 星空観光の推進
ハンモックで星空鑑賞する「星空ハンモック」や、 車内天井に星空が浮かび上がる「星空観光バス」を活用した旅行ツアーなどを支援。宿泊客を増やすため、宿泊環境の拡充。
自治体が取り組む脱炭素と事例
SDGsの中でも、特に目標13「気候変動に具体的な対策を」が近年注目されています。
SDGsが国連サミットにて採択された同じ年、フランスのパリで開催された第21回国連気候変動枠組条約締約国会議(COP21)においてパリ協定が採択されました。パリ協定は、2020年以降の温室効果ガス排出削減等のための新たな国際枠組みです。
日本政府はパリ協定の目標達成にむけ、2020年に脱炭素社会の実現を目指すことを宣言し、翌年「パリ協定に基づく成長戦略としての長期戦略」を国連へ提出しました。温室効果ガスの排出を全体としてゼロにする脱炭素社会を実現するためには、国と地方の連携・協働が不可欠です。
ここでは、自治体による脱炭素の取り組みを紹介していきます。
そもそも脱炭素とは?
脱炭素とは、炭素をなくすこと、つまりCO₂をゼロにしようとする取り組みです。
近年、集中豪雨や異常気象による災害や作物の不作、海洋環境の変化による漁獲への影響など地球温暖化によるさまざまな不利益が顕在化しています。
地球温暖化の原因となっているCO₂をはじめとする温室効果ガスは、もともと地球の大気に存在し、太陽からの熱を取り込んで地球を適度な温度に保つ役割を果たしています。
しかし、産業革命前に比べてCO₂は40%増加し、地球の平均気温は徐々に上昇を続け、2011〜20年は観測史上最も気温が高い10年間となりました。2021年に国連の気候変動に関する政府間パネルは、人間が地球の気候を温暖化させてきたことは「疑う余地がない」とする報告を公表しています。
2015年にパリで開催された国連気候変動枠組条約締約国会議(COP21)において採択された「パリ協定」の合意事項の概要は次のとおりです。
- 世界共通の長期目標として2℃目標の設定。1.5℃に抑える努力を追求すること。
- 主要排出国を含む全ての国が削減目標を5年ごとに提出・更新すること。
- 適応の長期目標の設定、各国の適応計画プロセスや行動の実施、適応報告書の提出と定期的更新。
地球上で人類が存続していくためには、世界各国が協力して脱炭素に取り組む必要があり、日本も具体的な戦略を示して確実に実行していくことが求められています。
日本の脱炭素の取り組み
脱炭素の実現にむけたグローバルな流れを受け、日本政府は2020年、2050年までに温室効果ガス排出を実質ゼロにすると宣言しました。翌年には、「2030年度に2013年度比で46%削減し、50%削減に挑戦する」という、具体的な数値を示して目標を表明しています。
これらの高い目標を達成するためには、国と地方の協働が不可欠です。具体的な施策を検討するために、政府に国・地方脱炭素実現会議が設置され、2021年に「地域脱炭素ロードマップ」が策定されました。
「地域脱炭素ロードマップ」の内容は、地域が主役となり、地方創生に資する地域脱炭素の実現を目指すというものです。特に、暮らしの質の向上や防災などの地域課題を脱炭素を通じて解決し、強靭で活力ある地域社会へと移行させることを目標としています。
2025年までの5年間を集中期間とし、2030年以降も全国へと地域脱炭素の取組を広げ、2050年を待たずして多くの地域で脱炭素を達成するというビジョンです。このように、国が具体的な削減目標を掲げ、地方の脱炭素を支援しながら促進していくという動きが始まっています。
自治体の脱炭素の取り組み
前述の「地域脱炭素ロードマップ」では、脱炭素先行地域において2025年までの集中期間に施策を総動員し、2050年までに脱炭素を全国に広げることを目指しています。地域脱炭素は、脱炭素を成長の機会と捉え、地域の関係者が主役になって、今ある技術で地域資源を最大限活用するという点が特徴です。
自治体による脱炭素の取り組みとして、「脱炭素ドミノ」と「ゼロカーボンシティ」を紹介します。
脱炭素ドミノ
意欲と実現可能性が高い地域が脱炭素の取り組みを先導し、他の地域へと脱炭素がドミノのように波及していくことです。地域資源を活用して経済を循環させ、地域課題を解決し、脱炭素を実現しながら地方創生に貢献することを最終目標としています。具体的な対策としては、再生可能エネルギーの導入、エネルギー効率の向上、建物の省エネルギー化などが考えられます。
ゼロカーボンシティ
温室効果ガス削減の取り組みとして各国や地域で推進されており、都市の持続可能性と住民の生活の質の向上を目指すものです。国内では、環境省によると「2050 年にCO₂を実質ゼロにすることを目指す旨を首長または地方自治体として公表した地方自治体」とされています。
CO₂を実質ゼロにするとは、CO₂の人為的な発生源による排出量と、森林等の吸収源による除去量を、プラスマイナスゼロにするということです。地球温暖化対策の推進に関する法律(温対法)では、地方自治体はCO₂排出の削減等のための施策を策定・実施するよう努めるものとされています。
温対法や地域脱炭素ロードマップを受け、「2050年までにCO₂排出実質ゼロ」を表明している自治体は、2024年3月29日時点で全国1,078自治体にのぼります。
国と地方が協力して脱炭素を推進していく体制が構築されつつある中、先進的な取り組みが既に始まっています。
自治体の取り組み事例紹介
自治体による脱炭素は、地域課題を解決し、地方創生と脱炭素を同時に実現することを目指す成長戦略です。全国各地で地域脱炭素の取り組みが進むなか、3つの自治体の取り組みをご紹介します。
福島県桑折町
役場庁舎に、太陽光発電設備(20kW)と蓄電池(22kWh)を導入し、施設のCO₂排出量削減に寄与するとともに、地域防災力を強化しています。
2022年福島県沖を震源とする地震で震度6弱を観測し、町内全域で停電が発生した際には、蓄電池から電力供給を行い災害対策本部の機能を維持できました。 また、避難住民の受け入れに必要な照明を確保し、携帯電話などの充電スポットを提供することが可能となりました。
鳥取県
地域の再エネ由来電力を最大限活用して脱炭素化を実現し、交通ネットワークの構築や林業振興・農業振興にもつなげ、中山間地域の再生・持続モデルを目指しています。
- 佐治川流域に小水力発電(496kW)を導入
- 既存戸建住宅750戸や公共施設等にオンサイトPPAで太陽光発電(4,079kW)導入
- 市有遊休地へオフサイトPPAで太陽光発電 (3,700kW)・蓄電池を面的に導入
- VPPによるエネルギーマネジメントで自家消費率を最大化
- 公立鳥取環境大学にて、太陽光発電設備の導入とZEB化によるキャンパス全体のカーボンニュートラル化を目指し、知見を教育・研究に活用
- 地元企業のEVリース事業や自動運転移動サービス、電化モビリティによるデマンド交通の導入で持続可能な地域交通システムを再構築
- バイオマス熱電併給設備を導入し、未利用森林資源から燃料を供給し、発生する熱をゼロカーボンファームでのハウス栽培に活用
- 住宅に導入した太陽光発電の余剰分を、工業団地内の製造業に供給
島根県邑南町
邑南町では、地域で発電した再生可能エネルギーを活用し、地域脱炭素の実現を目指しています。
- 太陽光発電設備と蓄電池設備の導入
町内公共施設・事務所・一般家庭に太陽光発電設備と蓄電池設備を無償設置し、再生可能エネルギー由来の電力の自家消費を推奨 - 地中熱の活用
再整備した道の駅瑞穂において、安定して得られる地中熱を、冬季の融雪・夏季の空調に活用 - 有機農業、スマート農業、ソーラーシェアリング
化学肥料や農薬の使用を控えた有機農業の拡大と、ドローンなどを活用したスマート農業の推進、PPAスキームを活用したソーラーシェリングを推進
まとめ:未来をより良くするための自治体の取り組み
ここまで、自治体がSDGsや環境問題対策に取り組む方法や先進的な事例について解説してきました。
あなたの住む自治体も、環境問題に対して地域の特性に応じた取り組みを実施しているはずです。ぜひ、環境対策やまちづくりについて確認してみてください。
さらに、パブリックコメントや事業への参加をとおして、市民の立場から主体的に関わることも可能です。持続可能な未来に関する取り組みについて知ることで、ますます自分の街が好きになるかもしれません。
【参考】
環境省「『ローカルアジェンダ21』策定状況等調査結果について 参考資料」
環境自治体ベストプラクティス集「ベストプラクティスの一覧」
内閣府地方創生推進室「SDGs未来都市・自治体SDGsモデル事業 事例集」
内閣府地方創生推進室「SDGs Model Project-未来へつなぐまちづくり-」
外務省「気候変動」
国立環境研究所「より精緻な科学的知見を提供−IPCC第1作業部会第6次評価報告書概要−」
脱炭素地域づくり支援サイト「地域脱炭素とは」
環境省「脱炭素に向けた地方自治体の取組について」