近年、私たちの暮らしにも身近になってきているAI(人工知能)ですが、環境問題の解決にもAIが利用され、グリーンAIと呼ばれて認知され始めています。ここでは私たちの身近に存在するAIについて解説、環境問題解決の糸口となるグリーンAIのメリットやデメリット、環境問題を解決するためにAIをどう活用するのかなど、具体的な導入例も参考に紹介していきます。地球環境改善やSDGsの目標達成のために、AIがどのように私たちの暮らしと未来と関わっていくのかにも注目しましょう。
地球環境問題解決のためのAI活用とは?
AI(人工知能)と聞いてまず思い浮かべるのが、スマホやPCに搭載された音声認識機能や、アレクサやGoogleアシスタントなどの音声AIアシスタントでしょう。これらはすでに私たちの暮らしの中の様々なシーンで活用されており、その機能は多岐に渡っています。こうしたAIを環境問題解決に活用するために押さえておきたいAIの基本情報を紹介します。
AIの基本をわかりやすく解説
AIとは、コンピューターやロボットなどの機械に、人間と同じような「知能」を与える技術の総称で「人工知能」とも呼ばれています。AIは私たちの身近なところではスマホやPC、スマートスピーカーなどに搭載され、こちらが呼びかけた音声を認識することで情報提供するなど、すっかり暮らしの中に溶け込んでいます。
近年のAI開発では音声や画像などから得た情報を自ら分析するなど、学習機能が格段に上がっているのも特徴です。そのため自動車産業や医療分野、教育分野、金融業界、食品産業などの幅広い分野で活用されています。
ロボットとAIの違いは、ロボットが機械や電子部品を組み合わせることで「人間のような動きをする機械」である一方、AIは「人間の脳の働きを模した情報処理の一種」に例えられる点にあります。AIは学習したデータから法則を導き出し、予測を立てることができるのに対して、ロボットは自動的に行動するプログラミングをあらかじめ入力しなければ動けません。ただし最近ではAI搭載のロボットも登場していることから、2つの垣根は少しずつなくなりつつあるようです。
AIの身近な活用例って?
私たちに身近なAIとしては、音声を認識してこちらの質問や依頼に答えてくれる音声アシスタントや音声認識アプリケーションが代表的です。「Siri(シリ)」や「Googleアシスタント」「Alex(アレクサ)」などがあり、音声での検索やスケジュール管理、音楽をかけたり音量や音質を変えたり、音声をテキスト化するなど、言葉(命令)一つで行います。
また自動車の自動運転にもAI技術が搭載されていて、車間距離の調整や停止の判断、障害物を検知して衝突を回避するシステムなどの安全性能にもAIが関わっています。家電の分野ではAIを搭載したお掃除ロボットが、掃除の時に障害物を避ける学習をしたり、AIを搭載したエアコンが部屋の温度を自動測定し運転の種類を自動で選ぶなど、省エネ対策にも効果を発揮しています。
AI開発の歴史について
AIの正式な名前は「Artificial Intelligence(アーティフィシャル・インテリジェンス)」といいます。1956年にアメリカの大学で「人間の知能を機械によって模倣し、機械が人間のように思考や問題解決を行えるようにするための会議」が行われ、そこで初めて「AI」という名称が生まれたとされています。
AIは「人工的に作られた知能=人工知能」と訳され、日本でも広く認知されるようになりました。AIにはそもそも明確な定義はなく「人間の脳に近い機能を持ったコンピューター」や「コンピューターの学習能力を与える研究分野」と表現され、世界中の研究者によって今日までに実に様々な研究・開発が行われてきました。
AIの開発には1950〜60年代、80年代、2000年代と3回のブームが起こったとされ、2000年代に始まった第三次ブームではビッグデータを用いることで、AIが自ら知識を獲得する「ディープラーニング(深層学習)」などの手法がブームとなりました。さらに今、起こっているのが「生成AI」などによる第四次ブームといわれています。
AIの学習方法について
AIの主な学習方法には機械にデータを学ばせる「機械学習」がありますが、その中でも2000年代から採用されている「ディープラーニング(深層学習)」はビッグデータを用いて自動的にデータを抽出した上で問題を解決するなど、それまでの機械学習より優れた手法として進化をとげてきました。
第三次ブーム下では、2016年にGoogle傘下の企業が開発したAI囲碁プログラムが、世界トップレベルの囲碁のプロ棋士に勝利したことが大きなニュースとなりました。当時はAIがプロ棋士に勝つにはあと10年はかかるといわれていたそうですが、そのAI囲碁プログラムで使われていた技術が、人間の脳神経の仕組みを数理モデル化したアルゴリズム(計算手順)「ニューラルネットワーク」ということも話題となりました。
AIはその後、日本の将棋界を一変させるほど発展していきました。2012年から行われてきたプロ棋士とAIが戦う「将棋電王戦」では、2017年までに14勝5敗1引き分けとAIがプロ棋士を大きくリードしたそうです。2017年には当時の佐藤天彦名人が将棋AIに敗れたことも大きなニュースとなりました。将棋AIが急速に進化した背景には「機械学習からディープラーニングへの移行」が大きいとされ、今や将棋AIは人間を越えるまでになったともいわれています。
第四次ブームの到来「生成AI」とは
自然言語処理の分野では自動翻訳や今、話題のチャットGPTなど「生成AI」が注目されています。生成AIとは与えられたデータから新たな画像や文章、音声などのデータを作り出すことができるAI技術のことをいい、チャットGPTもこの生成AIの一種です。
チャットGPT(ChatGPT)はアメリカのAI研究所が開発した会話型 AIサービスで、ユーザーがチャットGPTのサイトで質問したいことをテキスト入力すると、数秒程度で回答を提示します。英語だけでなく、フランス語、ドイツ語、中国語、日本語など様々な言語に対応しているのも特徴です。
GoogleやYahoo!が提供する検索サービスとチャットGPTの違いはどこにあるかというと、検索サービスの場合、ユーザーがそのキーワードを入力し、検索結果でピックアップされたウェブサイトの内容をユーザー自身が確認して答えを探すのが一般的です。一方でチャットGPTは、ユーザーの質問に対して、まるで人が話すような言葉でAIが返答します。ユーザーがキーワードを考える必要はなく、例えば「グリーンAIのメリットを教えて」と質問すれば、それに見合った回答を提示してくれるのです。
2022年11月末に発表されたチャットGPTは公開後のわずか5日間で全世界のユーザー数が100万人を超え、2カ月後には月間のアクティブユーザーが1億人を超えたといわれます。国別訪問者の割合ではアメリカ、インドについで日本は第3位とされ、人口あたりの利用者数は日本が世界1位(2023年当時)とされ、AIとの親和性が高い国として世界の開発者からも注目されています。チャットGPT以外の生成AIとしては「Microsoft 365 Copilot(コパイロット)」などがあり、その他ではNTTや楽天、スタートアップ企業まで、様々な日本企業が生成AIサービスの提供や日本語LLM(日本語の特性やニーズに最適化された大規模言語モデル)の開発に取り組んでいます。
環境問題解決に役立つグリーンAIとは?
ここまでAIの基本的な活用例、開発の歴史やその学習方法についてお伝えしてきました。この項目では、環境問題解決の切り札になるかもしれないと注目されている「グリーンAI」について紹介します。
AI開発は地球環境に負荷を与えている?
AIの開発は大量のデータを処理して機械学習を行うため、プロセッサの稼働や冷却に膨大な電力が消費されることや、結果的にCO2の排出量が増えることが以前から指摘されてきました。冷却には電力だけでなく大量の水も消費されるため、AI開発は環境負荷の面でネガティブに捉えられてきたのです。
しかしAIの持つ学習能力の高さや大量の情報処理能力は、環境問題解決の切り札にもなる可能性を秘めていることから、近年ではAIを活用した環境問題への取り組みを「グリーンAI」と呼び、可能な限り省エネルギーで運用するための研究や手法の開発が進められています。AI開発を環境負荷の少ないポジティブな取り組みにするためには次の3つのポイントが挙げられます。
AI開発をポジティブにする3つのポイント
- データセンターの建設は再生可能エネルギーの供給を受けやすい立地を選定
- パブリッククラウドを利用する際は再生可能エネルギーを使用している業者を選ぶ
- AIの開発や処理においてより効率的なアルゴリズム(計算・処理方法)を追求し、プロセッサにかかる負荷を軽減する
上記のうち、2番目に挙げたパブリッククラウドの利用については、管轄するデータセンターが再生可能エネルギーでの電力供給や廃棄物の削減を公表していることが前提となります。これらのデータセンターを選択することは、そのままSDGsの目標達成やカーボンオフセットへ貢献することに直結すると捉えられています。 こうした観点から開発されたAIそのもののことをグリーンAIと指すこともあり、グリーンAIの活用は、環境問題解決の切り札として国際会議の場でも活発な議論が行われています。
環境問題解決に向けたAI活用のメリットとは
AIの開発には先にも紹介した通り、デメリットともいうべき環境負荷の問題が指摘されていましたが、AIの持つ特性が活かされれば、電力消費を抑えるための方法や、不必要に消費しているエネルギーを特定するなど、エネルギー効率を向上させられる点が注目されています。これによりAIを活用してエネルギーの効率的な管理を行うことで、公共交通機関などのエネルギー消費を抑えて、CO2の排出量を減少させることも可能になるかもしれません。
もちろんそのためには環境に配慮した再生可能エネルギーを取り入れたデータセンターやパブリッククラウドをうまく利用することが必要です。データセンター自体とその運営をエコな視点で活用できるようになれば、名実ともにグリーンなAIとして認知され、2050年の脱炭素化に向けたカーボンニュートラルや、2030年までに持続可能でよりよい世界を目指す国際目標sdgsの達成の実現に向けた取り組みにもグリーンAIが役立つでしょう。
グリーンAI導入の課題
実際にグリーンAIを導入する際の一番の課題は「コスト」だといわれています。AI技術やハードウェアの進化により、グリーンAIの実現には常に最新のテクノロジーへの対応が求められます。定期的なアップデートやアップグレードの必要性があり、ビジネスモデルとして成功するには経済的な観点からも、グリーンAIの導入が適切であるか、長期的な経済的メリットが得られるかという点も加味しながら慎重な検討が必要です。
AI活用によって環境問題を解決する方法とは?
AIとは何か、その基本知識と環境問題解決へAIを活用する際の注意点、AIを活用した地球環境問題を解決するためのグリーンAIについてわかったところで、この項目では気候変動や海洋汚染、森林破壊など、数々の環境問題解決の課題へ向けて、AIが活用されている取り組み例と、AIを活用することで可能性が広がる分野について紹介します。
気候変動による洪水予測
気候変動がもたらすリスクに対して、AI技術の活用は様々な効果を発揮すると期待されています。例えば河川の氾濫や洪水リスクの高い地域では、降雨量や地形データをもとに、AIによる洪水発生の可能性を予測することが可能です。
日立グループが環境省から請け負い開発したのが、アジア太平洋地域をはじめとする開発途上国での利用を想定した「浸水予測Webサービス」です。このサービスは河川氾濫や集中豪雨、高潮などによる浸水状況の時間変化を高速化してシミュレーションでき、ウェブの地図上に予測結果を表示できるシステムで、開発途上国における気候変動による浸水リスクの把握や気候変動への適応策の立案を支援するサービスとして構築されました。
このサービスの運営は、アジア太平洋地域で気候変動適用の研究拠点として活動する「アジア工科大学(AIT)」のアジア太平洋地域資源センターが行っており、デジタル技術を活用した官民連携での国際協力の取り組みとして注目されています。
参考:株式会社日立製作所 | 気候変動に伴う浸水リスクを高速にシミュレーションする 環境省の開発途上国向けWebサービス「FloodS」を構築(2023年12月)
\地球温暖化と気象との関係は?/
汚染状況を探る海洋調査
海洋調査の分野での具体的な取り組みとしては、NEC(日本電気株式会社)と国立研究開発法人海洋研究開発機構による「海水からマイクロプラスチックを計測するシステム」の開発があります。マイクロプラスチックとは5ミリ以下の微小なプラスチックの粒子のことで、海に流出したプラスチックごみが分解されずに紫外線や海水などで劣化し、海の底に沈んだりエサと間違えられて魚介類の体内に取り込まれるなど、近年大きな問題である海洋汚染の原因の1つとされています。マイクロプラスチックによる海洋汚染は世界的に広がりを見せ、生態系への影響だけでなく食物連鎖を経て私たち人間への影響も懸念されています。
汚染の実態を正確に把握するためには、それぞれの海域におけるマイクロプラスチックの数や大きさ、種類を分析することが必要とされ、それによって流出源となる場所を推定し、流出経路や到達地を予測する必要があります。このシステムではディープラーニング技術を搭載した機械学習での画像認識技術が採用されていますが、これまで手作業で行なわれてきたマイクロプラスチックの検出が自動化され、かつ高精度化できると期待されています。
参考:日本電気株式会社 | NEC、海洋研究開発機構とともに、AIを活用した海洋マイクロプラスチック計測システムを開発(2020年7月)
\海洋プラスチックごみはなぜ悪い?/
違法な侵入者を防ぐ森林保護
熱帯雨林をはじめとする森林は、大気中のCO2(二酸化炭素)を吸収し、多様な動植物の生態系を支えたり、気候変動の抑制と生物多様性の保全に重要な役割を果たしています。その熱帯雨林が今、減少の一途をたどっていることは周知の事実です。熱帯雨林の伐採はその90パーセントが許可を得ずに違法に行われているといわれていて、こうした違法伐採から木を守ることが急務とされています。
日立グループの日立ヴァンタラ株式会社では、熱帯雨林の保護に向けて米国・サンフランシスコのNPO法人と共にAI技術を活用し、熱帯雨林の音を継続的に録音するモニタリングに取り組んでいます。録音された音はクラウドに送信され、AIと機械学習を通して特定の音を解析し、熱帯雨林の生態系で何が起こっているのかを迅速に見通すことができるそうです。現地パートナーや先住民のコミュニティーへ侵入者がいることを知らせることで、違法伐採や野生動物の密猟を防ぐことを目標としています。
参考:株式会社日立製作所 | 熱帯雨林の保護と気候変動の脅威に立ち向かう人工知能(AI)を活用した音響モニタリングシステム(2020年)
\花粉症にも影響する森林破壊/
地球温暖化による気象予測
地球温暖化による温室効果ガスの影響で、世界的に気温が上昇している今、気象予測にAIを活用する取り組みは世界中で導入されています。元来、地球上の大気は動きが複雑で刻一刻と変化するため、気象研究者は長年に渡り様々な方法で天気予報の精度を上げることに邁進してきました。気象レーダー、コンピューターモデリング、気象衛星と、気象テクノロジーは進化してきましたが2020年以降、AIの活用で急速に精度が向上したといわれています。
2022年には中国のハーウェイ(Huawei Technologies)社による「盤古気象模型」」やイギリスのグーグル・ディープマインド(Google DeepMind)社による「GraphCast」、2023年には欧州中期予報センター(ECMWF)が開発した「AIFS」など世界中から様々な気象AIのモデルが発表され注目を浴びました。気になる気象予測の精度はおおむねAI気象モデルが上という見解がある中で、台風やハリケーンの勢力の推移については精度が低いなど、弱点も指摘されています。
参考:日経XTECH | AI気象モデルが急速に高精度化、世界の天気予報がPC1台かつ1分で(2024年9月)
\気象予報士 くぼてんきさんにインタビュー/
排出CO2削減を目的とする渋滞予測
道路交通渋滞の状況は年々深刻化しており、全国で年間に発生する渋滞での損失は一人当たり年間約30時間、貨幣価値に換算すると約12兆円にも上るといわれています。渋滞時のCO2排出量は通常時の2倍に当たるといわれ、環境問題の視点からもCO2排出削減のための渋滞の解消は急務とされています。
ジオテクノロジーズ株式会社では、ビッグデータにディープラーニングを組み合わせることで、主要な道路だけでなく一般道も対象とした高精度な「AI 渋滞予測モデル」の開発に着手。それにより高速道路だけでなく一般道の渋滞予測が可能になり、5分単位での高精細な予測ができるため、渋滞を回避するルートの算出が可能になるとされています。このAI渋滞予測モデルは、カーナビ業界や物流業界などでの実用化を目指し、現在も研究が続けられています。
参考:ジオテクノロジーズ株式会社 | 一般道でも5分単位で予測ができる「AI渋滞予測モデル」開発に成功(2023年4月)
\エコな移動法を選ぼう/
環境負荷を減らす農業ビジネス支援
農業従事者の高齢化や後継者不足により、日本の農業は人手不足が深刻化しています。そんな中、AIを活用した農業支援が活発化しています。一番に必要なのが収穫作業の効率化です。収穫作業をAIを搭載したロボットによって自動化できれば、作業負担を大幅に減らすことが可能になります。またAIによって収穫量を予測したり、AIを使って農作物の病害虫が発生している箇所を特定することで、肥料や農薬の使用量を最小限に抑えることが可能になれば、農業地周辺の生態系の保護など環境保全にもつながることでしょう。
ソフトバンクグループ株式会社ではAIを活用した農業のサポートサービスを開始しました。農業AIブレーン「e-kakashi(イー・カカシ)」といい、農作物や植物の近くにセンサーを置くことで周囲の環境状態を計測してデータとして見える化し、植物科学に基づいた分析結果をフィードバックして、その時最適な栽培方法を判断するアシストを行うサービスです。取得した生産物のデータを分析し、植物の状態や生産者への栽培に関するナビゲーションという形でデータに「解釈」を加え、誰でも簡単に農作業ができることを目標としています。このシステムを利用して水やりを最適化したところ、収穫量が最大で1.6倍になった事例もあったそうです。
農業分野においても地球環境への負荷や汚染問題に対して責任が増してきている今、e-kakashiは気象データに加え、センサーから取得する温度・日射量などから二酸化炭素の吸収量を推定することができるそうです。また水田に生息する嫌気性の微生物によって生成されるメタンガスの発生も、AIの分析によって定期的に土壌に酸素を与えたり、水田の水抜きをすることでメタン産生を抑制できるとされています。この二酸化炭素吸収量推定システムは特許を取得し、将来的に今よりもっと地球環境に配慮した農業への活用を目指しています。
参考:ソフトバンク株式会社「ソフトバンクニュース」 | 植物のCO2吸収量を推定する“農業AIブレーン”で、地球環境にやさしい農業や企業活動を支援|SoftBank SDGs Actions #18(2023年6月)
\都市で送る"農的"ライフスタイル/
再生可能エネルギーの最適化
太陽光発電をはじめとする再生可能エネルギーの導入が増える中、再生可能エネルギーの最適化が課題となっています。再生可能エネルギーは太陽光や風力など、持続可能な資源を利用するため環境負荷を抑えた発電方法というメリットがあります。反面、水力発電や火力発電、原子力発電に比べると、土地の環境や天候に左右されやすく、安定した供給が難しいことが課題でした。
再生可能エネルギーの運用にAIを活用することで、発電量の予測精度を高め、リアルタイムで供給量を調整できたり、エネルギーの安定供給を実現することができるといわれています。AIは膨大なデータを解析し、エネルギー需要の変動を予測して最適な供給スケジュールを作成するなど、エネルギーの無駄を最小限に抑え、コスト削減にも寄与できると期待されています。
さらにAIの活用によって、電力価格の変動を予測し、利益を得られる最適なタイミングで電力を供給する戦略を自動で立てることができ、収益性の向上にも期待が寄せられています。こうした再生可能エネルギーの最適化にAIが導入されれば、これまでデメリットとなっていたエネルギーの安定供給が実現し、長期的に行えることでしょう。
2025年にはAIがエネルギー供給システムの中核を担うと予想されており、これまでのようなエネルギー供給だけではなく、AIを活用したスマートなエネルギーマネジメントでより一層、再生可能エネルギーの利用が進み、環境問題解決に貢献できるかもしれません。
\再エネ利用を"証明"する/
ゴミ問題の解決につながる食品ロスの軽減
食品ロス(フードロス)とは、本来は食べられる食品にもかかわらず捨てられてしまう損失(ロス)のことをいいます。食品ロスは、食品製造や外食産業といった「事業系フードロス」と家庭で発生する「家庭系フードロス」があり、日本における食品の総廃棄量が国連による国際的な食糧支援の食糧とほぼ同等という不名誉なデータがあるほど深刻です。食品の廃棄を焼却や埋め立てといった方法で行う場合は、ゴミ焼却で発生するCO2を始めとする温室効果ガスの排出や土壌汚染など、環境にも悪影響を及ぼします。世界中で食品ロスが問題視されている今、AIを活用することで効率的な食品ロスの削減が実現しています。
回転寿司チェーンの「スシロー」では、レーンを流れるすべての皿にICタグをつけ、売上状況や鮮度管理から、どんなネタが食べられどのネタが廃棄されたのか、独自にデータを蓄積し続けてきました。そこから新たに需要を予測するためのプラットフォームを構築し、年間の廃棄量を減らす努力を続けています。
ドイツ菓子を製造する「ユーハイム」では、大日本印刷株式会社(DNP)と共にフードロス削減に有効なAIによる商品販売の実証実験を行いました。AIを搭載した専用のバウムクーヘンオーブンで生産することで過剰生産を抑え、食品ロス削減につなげる取り組みが注目されました。
またコンビニ大手のローソンでは、それまで各店舗の担当者の経験や勘に頼っていた食品などの値引きを、AIを活用したシステムで行い、2024年度中に全国の店舗で展開することを発表しました。主に消費期限の短いおにぎりやパンが対象で、それまで販売機会を失わないように多めに発注していたのを見直し、食品ロスや売れ残りを防ぐことで環境問題の解決にも貢献することが期待されています。
\食品ロスについて詳しく/
AIを活用すればSDGsの目標を達成できる?
ここまで環境問題解決の切り札としてのAI活用例やその可能性についてお伝えしました。地球温暖化や気候変動、温室効果ガスの削減、海洋汚染など世界的な環境問題を解決する上で欠かせないのが、2015年に国連で採択されたSDGs(持続可能な開発目標)です。2015年当時はインターネットは普及していましたがAIについてはまだそこまで具体的な活用例が話題となっていませんでした。ここではSDGsが達成できないとどうなるのか、またAIがSDGsの目標達成にどう関わるのかについて簡単にご紹介します。
SDGsが達成できないとどうなるか
仮に2030年までにSDGsの目標が達成できないとどうなるのでしょう。環境問題については、地球温暖化が今よりもっと深刻になり、それによる気候変動が進んで世界的な異常気象や気温の上昇、海面温度の上昇に歯止めがかからなくなることが予想されています。世界平均の気温上昇も予測通りの1.5度ではすまなくなるでしょう。
日本では今よりもっと夏場の気温が上昇し、熱中症関連死のリスクが高まり、医療崩壊も起こるといわれています。またSDGsの目標が未達成になることで、世界的な食糧不足や水不足がますます深刻化します。水や食べ物をめぐって他国から侵略されたり、紛争が起こる可能性も考えられます。考えれば考えるほど、恐ろしい展開といえますが、あと残り5年を切った今こそ、もっと真剣に一人一人の「できること」を考え取り組んでいく必要があります。
\環境問題解決の課題とは?/
AIとSDGs
SDGsの目標9によると、世界で約26億人がインターネットにアクセスできていないとされ、目標の9-cでは「2020年までに安い値段でだれもがインターネットを使えるようにする」と掲げられていました。専門家によるとその後2022年には、全世界の人口の95パーセントが3G以上のモバイルブロードバンドへのアクセスが可能になり、一番発展が遅れているといわれるサブサハラ(サハラ砂漠以南)のアフリカでも82パーセントとかなり改善されていることがわかりました。
AIを環境問題解決に活用するには先に紹介した通り、その開発や運用に多くのエネルギーが消費されることから、いまだ懐疑的な見方もありますが、SDGsの目標自体が総じて製造業の発展や情報通信技術の発展をポジティブに捉えていると解釈され、環境への負荷がクリアになれば、積極的に活用するべきという見解もあります。SDGsの目標達成の2030年まではあまり時間がありません。マイナス面さえも技術革新でプラスに転じながら、AIの環境問題の活用は今よりもっと増えていくことが予想されます。
まとめ
ここまで地球環境問題を解決するためにAIを活用する必要性や現時点での関わり、そのメリット・デメリットや将来的な可能性についてお伝えしました。AIの開発や導入についてはその投資額の大きさから国の研究機関や大学、企業などに委ねるしかないかもしれません。それでも私たちの生活の中で徐々に存在感を増しているAIに今よりもっと関心を寄せ、地球環境になるべく負荷を与えない有効な活用法を一緒に考えることも大切な取り組みといえるでしょう。AIが環境問題の解決に役立つ日までみんなで見守って行きましょう。
参考・引用文献
北海道大学「ほくかだい辞典」 | 身近なAI(人工知能)にはどんなものがある?今後の予測も!(2023年9月)
国土交通省 | 効果的な渋滞対策の推進
大日本印刷株式会社 | 大日本印刷とユーハイム フードロス削減に有効な商品販売システムの実証実験を開始(2021年9月)
ユニセフ | SDGsって何だろう?