豊かな水を有する私たちの地球。「水の星」とも呼ばれるこの地球上で今、最も窮地に陥っているのがアフリカの国々です。日本からの距離はおよそ1万キロメートル以上。北アメリカと日本を往復する距離に相当する「遠い国」ですが、その深刻な危機は私たち日本人にとっても見過ごせないものとなっています。
目次
「安全な水」が手に入れられないアフリカの現状
アフリカでは長年、多くの人々が池や川、整備されていない井戸など衛生的ではない水を利用せざるを得ない状況でした。世界の人口の半数以上で、水道を使えるようになったと言われる今でも、アフリカ大陸、特にサハラ以南の多くの地域の人々は、まだまだ安心して飲める水を確保できていないと言われています。
いまだ4億人以上が「安全な水」を確保できていない
ユニセフの報告によると、2020年から2022年にかけてアフリカの人口は8億人から13億人に増加。そのうち約5億人が、基本的な飲料水を得ることができ、2億9000万人が衛生設備のあるトイレを利用できるようになったそうです。
しかしそのうちの4億1100万人もの人々が「基本的なレベルの飲料水」を日常的に確保できておらず、トイレに至っては7億7900万人もの人々が「基本的なレベルのトイレ」を利用できていないといわれています。
2015年に水のレベルを表した定義では「安全に管理された水」を頂点に「基本的な飲み水」「限定的な飲み水」「改善されていない水源、地表水」の5つが掲げられています。
不衛生な水を飲むことで起こる高い健康リスク
人々が日常的に使っている水は、池や川、管理されていない井戸などの水です。地域によっては、長年の干ばつなどから、わずかな水溜りから運んできた水を使わざるを得ず、中には動物の糞尿にまみれた極めて不衛生な状態の水もあるのです。
健康被害も深刻で、浄水処理がされてない川や池の水を飲んで細菌に感染したり、下痢や嘔吐を繰り返すなど、汚染された水が原因で命を落とす乳幼児は年間約30万人と言われ、1日に約800人もの小さな命が失われてきました。
アフリカ地域の水道普及率の改善が大きな課題に
かつて国連が35のアフリカ諸国を分析したところ、地方と都市部の水の供給にはかなりの格差があり、都市部では水道水が60%の利用者に供給されているものの、地方では40%にとどまっていたそうです。
度重なる紛争や政治的問題、財政面や技術的能力が乏しいことなどから、これまでになかなか安全な水を供給するインフラ整備が行われず、国や地域によって水道の普及率にバラツキがあることが、長年問題になっていました。
水道のインフラ事業や管理が遅れている現状
2024年世界銀行の報告では、サブサハラ・アフリカの水関連設備の公共支出は52億ドル。これは同地域のGDP(国内総生産)のわずか0.3%に過ぎず、今後、安全な水道サービスが普及するには、これまでの約17倍もの支出が必要だと分かりました。また水道整備の予算のうち約28%が水道の施設整備に使われていないことも判明。水道事業の非効率性も課題となり、都市部や一部の富裕層に供給が偏っているという現状も指摘されています。
1日に使える水の量は日本人の4分の1以下!?
WMO(世界気象機関=World Meteorological Organization)によるグラフを見ると、アフリカの人々が1日に使える水の量は、世界の平均使用料の2分の1以下ということが分かります。それは我々日本人が使う水の4分の1以下に相当します。すぐには想像できないかもしれませんが、私たちが顔を洗ったり、歯を磨いたり、ゴクゴクと喉を鳴らして飲む水やシャワーを浴びる水のうち、ほんのわずかしか、彼らには行き渡っていないのです。
急激な人口増加が「安全な水」の供給を妨げる原因にも
アフリカで安全な水が手に入れられない原因の一つが、急激な都市化による人口の増加です。アフリカというとサバンナのような大草原が広がるイメージですが、アフリカの都市人口は年率3.5%と、急速に増加を続けているのです。近代的な住宅が増える一方、貧困層が暮らすスラム街が広がるなど、居住地の格差問題にも発展しています。
農村部より都市の方が「水が足りない」?
もともと年間の降水量が低いアフリカ地域。10数年ほど前のアフリカでの水のインフラ支援は「井戸を掘ること」が主流でしたが、近年では急激な都市化により、人口が都市部に集中。「安全な水」を手に入れられる確率が、農村部では上がった一方、都市部では横ばい、または下がってきているのが現状です。
水道の故障で漏水が日常化している地域も
近年の急激な都市化は、決して多くはない水の供給を奪い合う結果にもつながっています。水道の普及はもちろん、整備や改修も追いついていないことから漏水によって失われる水も多く、都市部では「安全な水」がさらに届きにくい状況に陥っているのです。国によっては経済成長を優先する余り、生活用水より工業用水の確保が優先されるという現象も起こっています。
アフリカの「水と衛生問題」を解決するには?
アフリカ地域では、多くの問題が同時多発的に発生するため、環境対策が後回しにされがちな状況が続いています。人々の健康のため「安全な水の供給・確保」は最重要課題であり、早急に対策を打たねばならない目標なのです。国連をはじめ、多くの国や公共活動機関、NPO法人などや個人からの支援により、解決のための対策が続けられています。
国連「水会議」で「水行動アジェンダ」が採択される
2023年、46年ぶりにアメリカ・ニューヨークで開催された「国連水会議」。世界的な水危機に対する対策として「水行動アジェンダ」(※1)を推進することとなり、数十億ドルを拠出することが決まりました。また、水と衛生を手に入れるため「世界水の日」(※2)が定められました。
(※1) 水行動アジェンダとは 世界的な水の「危機」を「安全」に転化するための推進」を目的にしたもの。各国政府をはじめ、民間セクターなどが多額の支援を行い、世界的な水の危機に対する対策を続けるという目標です。持続可能な開発目標 (SDGs)の目標6「安全な水とトイレを世界中に」を早期に実現するために必要な取り組みについて確認が行われました。
(※2) 世界水の日とは 「持続可能な開発目標(SDGs)の目標6〜2030年までに誰もが安全に管理された「水と衛生」を手に入れる〜ためにアクションを起こす日」として、3月22日と定められました。
日本の団体や企業による「水と衛生環境」支援
JICA(ジャイカ/独立行政法人 国際協力機構)が行う国際支援のうち、代表的なものが「水支援」です。日本は長い間、水の分野におけるODA(政府開発援助)で世界トップクラスの資金提供を行ってきました。JICAでは水道の整備などのほか、現地の人々に「水を大切に扱う」という啓蒙活動を展開しています。また使った分の水道料金を適切に徴収することで、水道事業に必要な資金を生み出すというサイクルをつくり、水道事業者や国、自治体の水道事業が円滑に進むための支援を行っています。
【その他の活動】
- 国際協力NGOワールド・ビジョンでは、子供たちへのトイレの整備や手洗いの啓蒙を行い、劣悪な衛生環境からの脱却を目指しています。
- 国際NGOウォーターエイドでは、アフリカ諸国をはじめ、世界26カ国で水・衛生分野での専門性を生かして、日常的に安全な水を手に入れられない立場の人々に水を提供し、その土地に見合った解決策へと導いています。
- サラヤ株式会社は、ウガンダ保健省とともに、現地生産による低価格のアルコール製品による手指消毒を後押しする活動を行いました。
- 株式会社鳥取再資源化研究所(鳥取県)では、モロッコの地域農業開発公団とともに、土壌改良に着手。土壌の保水性を高め、節水に効果を得ています。
アフリカの「水問題」に対して私たちにできることって?
アフリカの人々が1日に使える水の量は、日本人の4分の1以下。また貧困地域では、水汲みなどの労働を弱い立場にある子供や女性たちが担っています。生活に必要な水が手に入らない「日常」は想像以上に深刻で、早急に解決しなければならない問題です。少しでも改善するために、私たちにできることから始めてみましょう。
ユニセフなどの活動団体へのドネーション(寄付)
ユニセフでは、2030年までに世界中の子供が水汲み労働に駆り出されることなく「身近な場所」で「きれいな水」が使えるようになることを目標に活動を続けています。地域の貴重な井戸を守るためにメンテナンス法の修得をサポートしたり、石鹸による手洗い習慣の指導、子供たち自らが井戸を清掃することを学ぶなど、衛生対策の啓蒙にも力を注いでいます。こうした活動を「寄付」という形で支援することも、私たちにできるアクションの1つです。
日頃から水資源を守る重要性を意識する
周囲を海に囲まれ、山がちな日本では、水不足で困ることがあまりないかもしれません。水資源が豊富な国に住む私たちだからこそ、きれいで安全な水が比較的簡単に手に入ることに感謝し、日頃から水をもっと大切にするアクションを起こしてみませんか? 同居する家族とも話し合って、節水にチャレンジしてみましょう。
【具体的なアクション】
- 歯磨きや洗面などで水を出しっぱなしにしない→30秒流すことで6リットルの水がムダに
- 食器や野菜を洗う時はボウルなどにためてから→出しっぱなしで洗うと約110リットル、ため洗いだと約20リットルで済む
- お風呂の残り湯を再利用する→浴槽の水は約200リットル
アフリカを支援する日本企業を支持し応援する
2024年現在、アフリカに進出している日本の企業総数は、500社余り。国別のトップ5は、
1位南アフリカ 2位ケニア 3位モロッコ 4位エジプト 5位ナイジェリアの順で、業種としては、医療機器、医薬品、自動車生産、農産物輸入、金融、飲食業など多岐にわたっています。
私たちに身近な業種の支援活動では、以下の様な取り組みがあります。
- トヨタ自動車
トヨタ・モビリティ基金を通じて、ジンバブエとケニアでNPO法人などとの協働で農作業用の電動三輪車のシェアリングサービスを支援、小規模農家の作業効率の上昇と女性の労働力の負担軽減を図っています。
- サラヤ
台所洗剤などを製造・販売するサラヤは、一般社団法人A-GOALが運営するケニアのユースサッカーチームを支援、2022年から首都・ナイロビにあるスラム街で子供たち1200人が対象のユースサッカーリーグが開催されています。これらの支援活動は、高い犯罪率や衛生環境の悪化、栄養不良の問題解決に貢献しています。
こうした企業の活動に関心を持ち、SNSなどをフォローしたり、商品を応援することで、アフリカの環境問題に私たちが何かしら貢献できるきっかけになるかもしれません。
水と衛生問題の他にアフリカが直面する様々な問題
発展途上にあるアフリカ地域の環境問題は課題が山積みな状態です。近年は都市の人口増加でゴミの量が増え、不法投棄なども問題となっています。その他、気候変動による干ばつ、土地が干上がり劣化してしまう砂漠化問題、野焼きやゴミの焼却で大気汚染が進み、温室効果ガスの放出が深刻化するなど様々です。
都市部では人口の増加でゴミが急激に増加
人口の増加にともない問題となっているのが「ゴミの増加」です。国連人間居住計画(UN-Habitat)の報告では、アフリカの廃棄物(ゴミ)発生量は先進国に比べるとまだ少ないものの、このままのペースでゴミが増え続けると、世界でも有数のゴミの保有地域になってしまう恐れがあると警鐘を鳴らしています。
ゴミが増え続ける原因の1つは、収集率の低さです。アフリカで発生する廃棄物の90%以上が、管理されていないゴミ捨て場や埋め立て地に集められ、その多くが適切に処理をされないままどんどん積み上げられて異臭を放っています。
廃棄物の発生量が3倍 ゴミ収集率の低さも課題に
UN-Habitatの報告によると、2050年までにサブサハラ・アフリカ地域における廃棄物の発生量は、調査した2016年のレベルの3倍に達するだろうと予測されています。これは急速な都市化と、中間所得層の増加、また世界的な廃棄物の取引や密売が原因だと言われています。
JICA(独立行政法人 国際協力機構)がWhat a waste2012を元に作成したグラフでは、アフリカ地域でのゴミの収集率は46%と、日本を含む先進国の98%という数字と比較しても極めて低い結果となっています。都市化でゴミが増える一方、公共のゴミ収集の整備が追いつかず、海や川への不法投棄による土壌汚染や水質汚染、海洋汚染につながったと考えられています。
想像以上に厳しいアフリカ地域のプラスチック規制
JETRO(日本貿易振興機構)の2019年のレポートによると、アフリカ地域では54カ国中、過半数にあたる30カ国が「プラスチック袋」の規制を導入するなどの政策が広がっています。ケニアでは2017年にプラスチック袋の製造・輸入・包装・使用が禁止され、違反した個人や団体には200万円〜400万円の罰金や1〜4年の懲役が課せられるなど「世界一厳しい」と言われています。その背景には、一向に解決しないゴミの不法投棄や密輸による問題があるようです。
「砂漠化」がさらなる水の枯渇を生み出す
アフリカの乾燥地帯では、1967年以降にサハラ砂漠より南の地域で起こった極端な「干ばつ」により、大地がひび割れ、野生動物が生息できなくなるなどし、世界的な問題となりました。国連の「砂漠化対処条約」(※3)ができたのも、このことがきっかけでした。
(※3) 砂漠化対処条約とは
2015年の国連サミットで新たに採択された国際目標。「持続可能な開発のための2030アジェンダ」に盛り込まれた17の持続可能な開発目標(SDGs)の1つです。
砂漠化には気候変動のほか、「人為的な要因」も挙げられます。人口の急増で耕作や放牧、木々の伐採を行ったために、急速に土地が変化したり、野生動物や家畜がその土地の植物を食べ尽くすことも、砂漠化に拍車をかける原因と言われています。
環境対策の取り組みの「格差」が貧困を促進?
先進国では当たり前となっている「環境対策」。アフリカなどの発展途上国では、国の体制が整うのが遅れたり、政治的な問題や度重なる紛争などで、環境対策が後手に回ることが多く、環境先進国のヨーロッパ各国との差が開いていました。前述した通り、アフリカ諸国も年々、国連機関や各国の支援を受け、環境への取り組みを行っていますが、急速な都市開発と爆発的な人口の増加が新たな問題に拍車をかけ、貧困やスラム化に頭を悩ませています。
「環境問題」が人権問題にも発展!?
環境問題は、人権問題とも密接に関係しています。人権とは「人々が人間らしく生きる権利」を指しますが、アフリカ地域に関しては、それらの人権が脅かされる状況が続いています。
その1つが水道設備の普及率で、都市部でも高所得者層と貧困層が暮らす地域で「格差」があり、誰もが等しく安全な水を使用する権利が守られているとは言えない状況が続いています。
まとめ
はるか1万キロを越す彼方にあるアフリカと日本。物理的な距離はあっても、「水と衛生」の環境問題は「待ったなし」の状況ということが分かったと思います。国連機関の活動報告や政府のODA資金援助、JICAなどの支援活動を通じて、その現状を把握するとともに、ユニセフなどの国際的な支援機構にドネーション(寄付)をする、アフリカに進出したり支援している日本企業を応援するなど、私たちにもできることからアフリカの環境問題について考えてみましょう。
【参考】
ユニセフ「6.安全な水とトイレを世界中に」
ユニセフ「主な活動分野 水と衛生」
ユニセフ「どんなに汚くてもこの水を飲むしかない」
JETRO「水関連設備の公共支出、サブサハラ・アフリカで52億ドル、MENAで129億ドル」
UN-Habitat「アフリカの廃棄物問題」
JICA「一筋縄ではいかないアフリカの水問題に、情熱とチームワークでインパクトを起こす【国際課題に挑むひと・3】」
国際連合広報センター「歴史的な国連水会議、世界的な水危機と水の確保に対処する分岐点となり、閉幕(2023年3月24日付プレスリリース・日本語訳)」
JICA「アフリカの経済成長、持続可能な開発と日本企業の役割」
トヨタ・モビリティ基金「アフリカの農村支援」
サラヤ「サラヤニュースリリース サラヤがアフリカ最大のスラムでのサッカーを支援」
JICA「世界のごみの現状を知る」