ネイチャーポジティブと日本の取り組み
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ネイチャーポジティブって何?

家族で水族館に行った時に絶滅危惧種の展示を見たんだけど、地球の生き物は今どんどん減っているのよね。このままだと絶滅する動物はさらに増えていくのかしら?

僕の仲間にも「絶滅犬種」といって絶滅してしまった種類がいるんだよ。僕も他犬事じゃないかも…。
ところで、生き物が減っていく「ネガティブ」な状況を好転させる「ネイチャーポジティブ」という言葉があるんだけど、ママは知ってる?

ニュースでは聞いたことがあるんだけど、詳しくは知らないわ。教えてくれる?

ネイチャーポジティブというのは、日本語では「自然再興」と訳されるよ。「自然を回復軌道に乗せるため、生物多様性の損失を止め、反転させる」ことを指す言葉なんだ。
日本では、2023年3月に「生物多様性国家戦略2023-2030」が閣議決定していて、2030年までにネイチャーポジティブを達成するという目標が掲げられているんだよ。

なるほど。自然を回復させようということなのね!ところで今どれくらい生物多様性が失われているのかしら?

生物多様性は過去1000万年間の平均と比べて10~100倍の速度で減少しているそうだよ。生物多様性は人間を含むすべての生物が生きている基盤だから、生物多様性が失われることで、人間の生活にも悪影響があるんだ。自然の損失によって世界のGDPの半分である44兆ドルが崩壊の危機にあるとも言われているんだ。

生物多様性って、想像していたよりも私たちの生活に影響があるのね!経済にまで影響があるなんて驚いたわ。ネイチャーポジティブって、具体的にはどんなことをすれば良いのかしら。
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ネイチャーポジティブ実現に向けて何をすれば良いの?

「自然保護」を意識すれば、ネイチャーポジティブが実現できるのかしら?

そうだね。自然保護も大切だけど、もっと複合的な取り組みが必要なんだ。ネイチャーポジティブ実現に向けての行動は大きく5つに分けられるよ。下の図を見ながら、解説していくね。

環境省 | ネイチャーポジティブ経済の実現に向けてp3(2023年3月)

1つめの「生態系の保全と回復の強化」は生物多様性と聞いてイメージしやすい、生態系を保護することだよ。2つめは「気候変動の緩和」だよ。生物が住む環境を保護するという意味では、気候変動対策も大切なんだ。3つめは「汚染、侵略的外来種及び乱獲に対する行動」だよ。外来種が入ってくることを防いで地域固有の生態系を保護することや、乱獲をやめることはとても大切だよね。

なるほど。どんなに生物を保護しても、外来種がいたり、乱獲されていたり、気候変動で住む環境が悪化したりすると生物には影響が大きいものね。

4つめは「財とサービス、特に食品のより持続可能な生産」で、5つめは「消費と廃棄物の削減」だよ。気候変動もそうだけど、人間の活動は生物多様性にも悪影響を及ぼしているんだ。それを認識して減らしていくことによって、人間の生活も向上していくと考えられているよ。

生物多様性の問題って、かなり色々なことが関わってくるのね。確かに大量に消費して大量に廃棄する生活は、環境にとっても人間にとっても持続可能な状態とは言えないものね。生物多様性の回復に役立って、さらに人間の生活にもメリットがあるなら、取り組まないわけにはいかないわね。
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ネイチャーポジティブ実現に向けた日本の取り組みは?

ネイチャーポジティブは私たちの生活にも深い関わりがあることは分かったけど、日本ではどのように取り組まれているの?

日本で「生物多様性国家戦略2023-2030」が閣議決定されていることは最初に説明したよね。この戦略は、2030年までにネイチャーポジティブを実現することを目指して、5つの基本戦略を掲げているんだ。下の図を見ながら解説していくね。

環境省 | 令和5年版 環境・循環型社会・生物多様性白書 第1部第2章第3節 自然再興(ネイチャーポジティブ)

1つめは「生態系の健全性の回復」。2030年までに、陸地の30%、海域の30%を生物多様性保全の地域として確保することを目指す「30by30(サーティー・バイ・サーティー)」達成に向けた取り組みを推進しているよ。具体的には、国立公園や国定公園などの保護地域の拡大、森林管理、海洋環境の保全に取り組んでいるんだ。日本では2020年までに、「陸域及び内水域の20.5%」「沿岸域及び海域の13.3%」が保護地域に指定されて、2010年の愛知目標(※)で掲げられていた目標は達成できたんだよ。

30by30という言葉もニュースで聞いたことがあるわ。陸も海も回復させるような取り組みを行っているのね。陸が20%、海が13%というと、30%の目標達成に向けてこれからも取り組む必要があるわね。
(※)愛知目標:2010年10月に名古屋で開催された「生物多様性条約第10回締約国会議(COP10)」で採択された世界目標のこと。各国で部分的な達成に留まった結果も踏まえ、2022年12月「生物多様性条約第15回締約国会議(COP15)」で採択された「昆明・モントリオール生物多様性枠組」では、SDGsやサステナビリティの観点を踏まえた内容も追加された。

2つめは「自然を活用した社会課題の解決」。図に入っている「NbS」というのはNature-based solutions(ネイチャー・ベースド・ソリューション)の略で、「自然の力を利用して、生態系と人間いずれにも利益をもたらす方法で社会的課題を解決すること」という意味なんだよ。自然の雨水貯留機能を利用した防災・減災、熱中症リスクを軽減するための都市部の緑化などがこの項目に入ってくるよ。

ネイチャーポジティブ達成に関して、防災のことや私たちの健康の話まで入ってくるの?!本当に生活の色々なことに関係があるのね。

3つめは「ネイチャーポジティブ経済の実現」。環境負荷を低減したり、生物多様性に配慮した製品開発をしたり、地域社会と連携したりと、企業活動に関わりのある取り組みだよ。4つめは「生活・消費活動における生物多様性の価値の認識と行動」とちょっと長いけど、要するに消費者も意識を変え、ライフスタイルを変えていく必要があるということ。政府は、生物多様性に関する啓蒙・教育活動を行っていて、持続可能な生活様式への転換を促しているんだ。

前の項目で説明してくれた、人間の活動に関する部分ね。確かに企業も取り組む必要があるわよね。私たち消費者は大量消費をやめて、環境に優しいサステナブルな生活を意識することが、ネイチャーポジティブへの取り組みに繋がるのね。

5つめは「生物多様性に係る取組を支える基盤整備と国際連携の推進」。これもちょっと長いけど、つまり国際的な連携を推進するということだよ。政府は、国際会議への積極的な参加や、途上国への支援などを通じて、国際的な取り組みを強化しているんだ。

生物多様性の減少は地球規模の課題だものね。どこかの国だけが頑張ってもあまり効果がないわよね。
ネイチャーポジティブの課題は?

こまでネイチャーポジティブについて紹介してきたけど、まだまだ課題は多いよ。例えば企業活動での対応については評価基準が必要になってくるけど、生物多様性については統一基準が作りづらかったり、大規模な開発や企業活動を展開する場合には基準が使えても、きめの細かい地域計画には利用できなかったりするんだ。

確かに。気候変動にはCO2排出量という基準があるけど、生態系は地域によっても様々だし、「どれくらい回復したのか?」って、基準を作ること自体がかなり難しそうね。

ライフスタイルを変えるという点についても、企業がどのようにネイチャーポジティブを実現しているか評価する基準がないと、商品やサービスを選びづらいよね。とはいえ、事業活動の中で自然に与えている負荷を把握した上で、生物多様性の啓蒙活動を支援したり、植樹によって森林保全・里山保全活動を行ったりと、取り組みをはじめている日本企業も増えてきているよ。

もう取り組み始めている企業もあるのね。ネイチャーポジティブって私たちの生活にも深い関わりがあることがよく分かったわ。どんな企業が取り組みをしているのか調べて、積極的に商品を選ぶようにしていくわね。
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キーワードのまとめ
- 「ネイチャーポジティブ」とは、「自然を回復軌道に乗せるため、生物多様性の損失を止め、反転させる」こと。2030年の達成を目指して積極的に推進されている。
- 生物多様性が失われることで人間の生活にも悪影響があるため、政府だけではなく企業・消費者も含めた取り組みが必要。
- 政府・企業・消費者も含め多岐にわたる取り組みが必要だが、統一の評価基準を作りづらいなどの課題もある。
(参考)
環境省「ecojin」 | ネイチャーポジティブ
2030生物多様性枠組実現日本会議(J-GBF) | J-GBFネイチャーポジティブ宣言
環境省 | 30by30とは
環境省 | 30by30目標が目指すもの
環境省 | 令和5年版 環境・循環型社会・生物多様性白書第1部第2章第3節 自然再興(ネイチャーポジティブ)
一般財団法人日本環境衛生センター 「生活と環境 NO.4」 | ネイチャーポジティブの実現に向けた期待と課題(中静透,2024年7月)
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