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株式会社AGRIKO 代表取締役 小林涼子 | 循環型農業と地球環境の未来への取り組み「アクアポニックス」

株式会社AGRIKO 代表取締役 小林涼子 | 循環型農業と地球環境の未来への取り組み「アクアポニックス」

今回インタビューさせていただくのは、俳優の小林涼子さん。
4歳の頃から芸能界に入りテレビや映画、舞台などで活躍している小林涼子さんですが、実は株式会社AGRIKO(アグリコ)の代表取締役としても活躍されていることをご存じでしょうか?

 

日本初の屋外型アクアポニックスシステムを取り入れた農園を開園することからスタートし、企業と協業した障がい者雇用支援やアート事業などにも取り組まれている小林さん。

環境と人に優しい循環型農福連携ファーム「AGRIKO FARM」(アグリコファーム)での取り組みや、気候変動のこと、リジェネラティブな農業、環境に対する想いについて、お話を伺いました。

農業に対する想いと起業について

農業に対する想いについて語る小林涼子さん

 

まずは御社の事業内容について教えてください

サスティナブル事業とアート事業があり、サスティナブル事業では、桜新町と白金にあるビルの屋上で「AGRIKO FARM」(アグリコファーム)というアクアポニックスによる農園を運営しています。アクアポニックスというのは、植物の水耕栽培と魚の養殖を掛け合わせることで、魚の養殖時に出る残渣や水中のバクテリアを含む水を野菜の育成に使用し循環させるシステムを利用し、お魚を養殖しながら植物を育てています。

 

農園で作る野菜は農園の下階にあるカフェや、お取引先の方と相談しながら作っていて、いわゆる「farm to table」、農場から食卓に直接届けることを実現しています。取り組みにご好評いただく飲食店様が増えてきており出荷先も増え、今年、来年と農園が増える予定で今頑張っています。

昨年の5月にアートの会社と合併したことにより事業拡大、今年はアート事業と農業の事業が一緒になるような、ラボラトリーを表参道にオープンする予定です。

 

農業で起業しようと思ったきっかけを教えてください

俳優業を続ける中でちょっと疲れてしまったとき、家族のすすめもあって、新潟県の高齢化が進む棚田で農業のお手伝いを始めたのがきっかけです。お米の美味しさや、自然の心地よさ、人たちの優しさに魅了されて農繁期には毎年通っていたのですが、2021年に家族の体調不良とコロナ禍があり、新潟県に行くことができなくなってしまいました。

 

「これでやめてしまったら美味しいお米が食べられなくなってしまう」と思い、今後どうしたら続けていけるかを真剣に考えました。当時はコロナ禍で先の見えない不安感がありましたが、それもかえって原動力になり、農業で起業しようと決めて株式会社AGRIKO(アグリコ)を作りました。

 

なぜアクアポニックスという仕組みを採用したのでしょうか?

新潟は広くて、すごく豊かで、何でも植えられる場所でした。最初は新潟と同じことがしたくて、生まれ育った世田谷エリアで農地を探していました。でもなかなか農地が見つからず困っていた時、知人の紹介から小川珈琲さんに声をかけていただき、桜新町のビルの屋上を貸してもらえることになったんです。

同時期せっかくだから田舎にはない農業の形がないかと探していたタイミングで、海外の友人にアクアポニックスを紹介してもらいました。 早速自分の自宅のベランダに作ってみたときに、お魚や野菜がかわいいし楽しくて。これならきっと都会でもみんなに農業を楽しんでもらえると感じました。

 

農業って大変だとか、汚れるとかいろんなネガティブなことを想像されてしまいがちですが、美味しい、楽しいというポジティブな部分もあるので、そこを伝えていきたいと考えています。それが持続可能に繋がっていきますし、みんなが美味しく物を食べ続けられる未来を目指して、アクアポニックスの農園を作りました。

 

AGRIKO FARMのアクアポニックスでこだわった点を教えてください

AGRIKO FARMのアクアポニックスは、環境負荷の少ない放置竹林の竹と、建築資材としては使えなかった廃材を活用して作りました。プラスチックにもいいところはあるんですが、出来るだけ自然の素材に置き換えました。

 

屋外型のアクアポニックスは日本初で、LEDライトなども使わず屋上の強い太陽光を活かしながら運営しています。ハウス型のアクアポニックスが多いなか、屋外型は無理だよって周りから結構言われたんですけど、今までの常識っていうのが必ずしも正解とは限らないので、やってみようと思ってこだわり抜きました。

 

日本で初めてビル屋上に作られた屋外型アクアポニックス_小林涼子さんインタビュー

△日本で初めてビル屋上に作られた屋外型アクアポニックス(画像提供:株式会社AGRIKO)

農福連携と運営についてのこだわり

農福連携と運営についてのこだわりを語る小林涼子さん

 

農福連携に取り組もうと思ったきっかけを教えてください

農業を始めた時から行っている新潟の村が、最年少が65歳っていうくらい高齢者が多いところでした。でも、みなさん私よりも元気で力持ちなんです。私の方ができることが少ない状態でしたが、出来ることを見つけてもらって農業に携わっていたんです。全て1人でカバーしなくても良いということを新潟で教えていただきました。

そして起業して、持続可能な農業をしようと考えていた時に農福連携(※1)という言葉と出会ったんです。実際に作業をお願いしてみて、専門的で上手な方がたくさんいらっしゃるということを知りました。

できないならやらなくていい、ではなくて、できることを伸ばすという考え方もあると考えて、AGRIKOでは農福連携という形を進めています。

 

(※1)農福連携
障がい者等が農業分野で活躍することを通じ、自信や生きがいを持って社会参画を実現していく取り組み。就労や生きがいづくりの場を生み出すだけでなく、担い手不足や高齢化が進む農業分野において、新たな働き手の確保につながる可能性もあり、農福連携は広がりを見せている。

 

農福連携の仕組みづくりで工夫した点はありますか?

農福連携というのは基本的に、作業量に対して「工賃」でお支払いすることが多いんです。俳優業は、安定しない職業なので不安も多いのですが、障がい者雇用においても同じで、安定・安心してお仕事が出来るといいな、という想いがあります。

模索を重ねて、今は企業の障がい者雇用支援で、一緒に農園を協業するという形をとっています。雇用だけではなく、様々な形でAGRIKO に関わってほしい、そんな想いから、現在、企業での雇用以外にも就労継続支援B型という近隣の障がい者施設に工賃をお支払いし毎週300株以上の育苗をお願いして、継続的に安定したお仕事が依頼できるよう工夫しています。

 

テレビの世界でも役を演じる俳優がいて、スケジュール調整するマネージャーがいて、映像を撮るカメラマンがいて、ヘアメイクがいて、と出来る人が得意なことをして分業しています。農福連携もまさに同じで、作業を細分化・マニュアル化することで、得意な人が得意なことをやっていくというやり方なので、私の中ではすごくフィットしています。だから、AGRIKO FARMはアクアポニックスのシステムだけではなく、そこで働く人も含めた「循環型ファーム」とお伝えするようにしています。

 

AGRIKOFARMで働く方たち_小林涼子さんインタビュー

△AGRIKO FARMで働く方たち(画像提供:株式会社AGRIKO)

 

農園運営についてのこだわりや工夫を教えてください

地球というものがあって自分たちがいる、だから地球に合わせる、ということが考え方のベースになっています。地球の環境が変われば自分たちも変わってくるし、環境に自分たちが合わせるというのが農園を運営していく上でのこだわりです。

 

農園では午前中に作業し、午後は勉強の時間を取るようにしています。勉強の時間に農業日誌をつけて、出荷やロスをチェックしたり、次のシーズンに向けて準備が何が必要で、いつから何を植えるか、などをチェックしています。現在の状況を常にチェックをして変えていくと、農園自体がすごくフレキシブルになってあまりダメージを受けずに済みます。

 

作る野菜やお花はお取引先のシェフの方たちと相談して無駄がないように育成しています。皆さん野菜や花の知識もあるし、四季にも敏感な方ばかりで。何を作って欲しいかリクエストをいただくこともあれば、逆に出来るものを教えてください、と言われることもあります。あとは出荷のときにも、農園の状況をお話して、コミュニケーションを取るようにしています。お取引先の方々も、環境や地球に関心がある方が多いので、皆さんご理解いただいて、ご協力いただいているおかげでこのスタイルが成立しています。

リジェネラティブな農業や環境への想い

リジェネラティブな農業や環境への想いを語る小林涼子さん

 

気候変動の影響を感じることはありますか?

ビルの屋上にあるので、特に夏は太陽光が強かったです。近年は熱中症で亡くなる農業者の方も増えているので、農園でもタープを引いたりして、人に影響が出ないよう工夫しました。

 

魚を養殖する水槽にとって夏はとても厳しい環境ですが、ティラピアという熱帯地域にいる淡水魚を育成しているので、水温が上がっても大丈夫です。逆に冬は魚を1ヶ所に集めて、少しだけヒーターを入れて環境に順応しています。夏に育成しているティラピアは水温が20℃を超えると産卵するのですが、昨年の夏は水槽内の温度が上がり自然交配して産卵して、稚魚が生まれました。元々冬前に魚種を変えて、夏に育てていた魚は出荷するというサイクルをとっていたので、まさか産卵するとは想定していなくて本当に驚きました。

 

野菜やエディブルフラワーについても、季節ごとに種類を変えるので、ダメージは少ないんです。太陽光がたくさん当たることで、バジルがよく育ったり、エディブルフラワーの色がビビッドになったり。クレソンについては今自生して増えていて、気温が合っている時期は森のような状態になりました。冬はクレソンの株が小さくなるのですが、春になるとまた横に伸びて、水に浸かったところからまた芽が出て、広がって行きます。

環境に対して合わせていくことで、かえって夏の太陽光の恩恵を受けられたりと、フレキシブルに運営することができています。

 

AGRIKOFARMで育つ作物の様子_小林涼子さんインタビュー

△AGRIKO FARMで育つ作物の様子(画像提供:株式会社AGRIKO)

 

リジェネラティブな農業の理想とする形を教えてください

今と同じように、美味しいものが食べ続けられる未来がずっと続くことが私の理想であり、起業したときからの目標です。そもそもリジェネラティブ(※2)でないと持続可能ではないと考えています。使うだけ・食べるだけじゃなくてリジェネラティブ、自分たちで再生していく、作っていくっていうことが大切なのかな、と思っています。

 

魚が水槽の中で自然交配で産卵した時には驚きましたが、完全に生物が生まれるところまで来られたので、リジェネラティブな農業に向けて一歩あゆみを進められたな、という風に感じています。

 

(※2)リジェネラティブ(Regenerative)
英語で「再生させる」ことを意味する言葉。問題の根本を解決し、現状をよりよくするための取り組みに使われる。農業分野においては、微生物や虫をはじめとした生態系を取り戻して自然環境を改善、私たち人間も無理なく持続できる農業として注目を集めている。

 

自然交配で稚魚が生まれた水槽_小林涼子さんインタビュー

△自然交配で稚魚が生まれた水槽(画像提供:株式会社AGRIKO)

 

読者の方へのメッセージ

読者の方へメッセージをお願いします

「環境問題」って森の問題、海の問題、といったようにくくって狭めて考えるのではなく、全ては繋がっているものだと考えています。一つの問題にも違う見方があるんじゃないか、と常に感じてもらえると、よりみんな身近になってくるのではないかなと思います。

 

私も意識が高い方ではないので、「環境問題」と言われてしまうと何となく自分事にならなくて。でも、明日美味しいものが食べられなかったら、と考えると、自分は何かしなければと思えました。みなさんにも、まず自分や自分の大切な人たちの明日が良くなるようにって考えてもらえたらいいなと思います。

編集後記

新潟の高齢化が進む棚田での経験から、「循環すること」にこだわりぬいて作られたAGRIKO FARM。魚が産卵し稚魚が育ち、その栄養豊富な水槽の水から野菜も自生して増える、といった生物・自然の循環だけではなく、「得意なことを生かす」という考えに沿って仕事・人もまた循環の中に存在するところが唯一無二であり、それを作りあげた小林涼子さんの行動力と想いの強さに感銘を受けました。

日頃環境問題について触れていると、つい「環境をなんとかしなければ」と思いがちですが、小林さんがおっしゃるように「地球や環境に合わせていく」という考え方そのものがリジェネラティブであり、身近に感じ行動するきっかけにもなるのかな、と感じました。

 

俳優業との両立は大変ではないですか?という問いに「楽しいから大変ではないです!」と笑顔で語られた小林さん。今年、来年と新たな農園を作り、ラボラトリーもオープン予定とのことです。今後も株式会社AGRIKOの新たな展開から目が離せません。

 


\AGRIOKO FARMについても掲載されています/

 

\有機農業とエコ石鹸で目指す持続可能な未来/

 

株式会社AGRIKO 代表取締役 小林涼子

Profile

株式会社AGRIKO 代表取締役 小林涼子

俳優として活動する傍ら、2014年より農業に携わる。家族の体調不良をきっかけに、株式会社AGRIKOを設立。環境と人に優しい循環型農福連携ファーム「AGRIKO FARM」の運営、障がい者雇用支援事業やアート事業などを手がける。

AGRIKOの由来は「AGRI(農業)」+「子」。後継者不足で辞めざるを得ない農家が多いなか、私たちが農業を受け継ぐ「子」になりますという宣言の気持ちを込めています。

 

株式会社AGRIKO

株式会社AGRIKO 代表取締役 小林涼子 | 循環型農業と地球環境の未来への取り組み「アクアポニックス」

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